2024 年 15 巻 1 号 p. 1_60
(緒言)
千葉県は令和2年度の都道府県別農業産出額が全国4位の農業県であり,中でもカブの収穫量は令和2年においても日本一の収穫量である1).
カブは春の七草であるスズナとしても知られており,古くから日本に定着している野菜である.調理方法は漬物のような生での利用に加え,煮物や炒め物,おろしなど多彩である.栄養学的にも,カブの根は大根よりg当たりのアスコルビン酸を多く含み,生食が可能なことから,摂取による抗酸化作用が期待できる.
近年,イタリアの研究チームにより,水溶液に含まれる生物学的抗酸化能(以下抗酸化能)を簡便に測定することができる方法としてBiological Antioxidant Potential Test(以下BAPテスト)が開発された2).しかし,抗酸化能を持つと思われる食品のほとんどはBAPテストによる抗酸化能が測定されていない.
本研究の目的はBAPテストを用いてカブの抗酸化能を評価するとともに,カブの皮の有無による抗酸化能の違いを検討し,カブの利用に役立てることである.
(研究方法)
⑴ 材料
カブは千葉市内のスーパーでBAP測定日に購入した新鮮な市販品を用いた.
また,食品に含まれる代表的な抗酸化物質であるアスコルビン酸を標準物質としてBAP測定を行った.
⑵ サンプルの調整
BAP測定のサンプルはカブの葉・茎部分及び根の先端を完全に除去し,中心から半分に切断して片側を皮つき,もう片側を皮なしのサンプルとして扱った.
皮つきのサンプルは皮を剝かず,皮なしのサンプルは皮を剥いてそれぞれをDWと一緒にミキサーにかけ,遠心機にかけた.遠心後のサンプルを0.45µmのフィルターでろ過して得られた抽出液を試料とした.
⑶ BAP測定
BAP測定は,フリーラジカル解析装置Free carpe diem(Diacron International社)とBAPの測定キットを用いた.
アスコルビン酸はBAPの測定範囲に入ると推定される3点の濃度を用意し,BAP測定によって得られた抗酸化能の値(以下BAP値)が正の相関関係を示すのかを確認した.
(結果)
カブの抗酸化能をBAP値として初めて示すことができた.カブの皮つきと皮なしのBAP値を比較したところ皮つきが有意に高い結果が得られた.
今回求めたカブのBAP値は標準物質として測定したアスコルビン酸で換算すると食品成分表に収録されているアスコルビン酸量と比較して高値を示していた.
(考察)
アスコルビン酸は水溶性成分であり,今回の検討で得られたBAP値に強く関連する成分であると思われたが,測定結果と日本食品成分表のビタミンCの数値の間に剥離が見られた.カブの根はliquiritinや4,4’-dihydroxy-3’-methoxychalconeなどのフラボノイドを含むため,アスコルビン酸よりフラボノイドをはじめとした非栄養成分の影響をより強く受けている可能性がある3,4).
今回の測定ではカブのアスコルビン酸の測定はしておらず,品種や収穫された場所も揃っていないため,同一の農場,同一の品種を用いてアスコルビン酸を含めて検討をする必要がある.
今回試料として利用したカブは日本食品成分表において皮つきと皮なしが別々に収録された,一般に皮を剥かずに食べられることが知られている野菜である.今後カブの皮に含まれる成分の検討により,カブの皮の利用に理解が深まればカブの利用による健康の増進や食品廃棄の減少が期待できると考える.