千葉県立保健医療大学紀要
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第14回共同研究発表会(2023.9.12~9.16)
公立小・中学校で働く教員の精神疾患に関する認識
小林 雅美小宮 浩美加藤 隆子
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2024 年 15 巻 1 号 p. 1_61

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抄録

(緒言)

 精神疾患に罹患した成人の半数は10代半ばまでに発症し,4分の3が20代半ばまでに発症する1)ことから,学校が精神疾患の2次予防を担う役割が大きい.2022年4月の高校の学習指導要綱の改訂では,「精神疾患の予防と回復」が盛り込まれたが,中学校では1980年以降に精神疾患名を挙げての精神保健に関する記載が教科書からなくなったままである.加えて,1995年からスクールカウンセラー制度が開始されているが,2022年の時点で全国の小学校で週4時間以上定期配置されているのは23.7%に過ぎず2),スクールカウンセラーが学校に常駐することは難しい現状にある.これらから,教員が果たす役割が重要と言える.

 これまでの先行研究では,小・中学校の養護教諭が精神疾患をもつ児童・生徒へ関わりを行っていることは報告されていたが,担任を含めた教員がどのように精神疾患をもつ児童・生徒へ関わっているか,またどのように精神疾患について知識提供をしているかについて,教員の認識から明らかにした研究はなかった.そこで,本研究に取り組み,公立小・中学校で働く教員の精神疾患に関する認識を明らかにし,公立小・中学校における児童・生徒の精神的な健康の保持・増進に向けた示唆を得ることを目的とした.

(研究方法)

 研究対象者は,スノーボールサンプリングにより抽出した.公立小・中学校で働く精神疾患をもつ児童・生徒との関わりの経験あるいは精神疾患について知識提供をした経験を有する教員とした.データ収集期間は,令和4年11月~令和5年1月であった.データ収集方法は,インタビューガイドに基づき半構造化面接を行い,精神疾患をもつ児童・生徒に行った関わりと精神疾患についての知識提供の内容を分析対象とした.KJ法を参考に分析を行った.

(結果)

 研究対象者は9名で,養護教諭が3名,担任が6名で,男性5名,女性4名だった.教員平均経験年数は養護教諭が平均22年,担任が平均8年だった.

 分析の結果,精神疾患をもつ児童・生徒の生育歴を知り,日々の学校活動を観察することで病状の変化を把握しようとする【学校生活における精神疾患の経過観察】,周囲の児童・生徒が精神疾患を特別視しないように説明することや保健室で休養できるようにする【精神症状ではなく個性の一つとして見守る環境づくり】,突発的な対応で授業の進行が難しいことや,学習上の指導で精神症状の悪化を懸念している【精神症状への個別対応と教育のジレンマ】,家族の精神状態によって精神科医師との話し合いがうまくいかないという【家族状況から精神科の介入が進まない葛藤】,保健室の休養と教室の学習についての【担任と養護教諭の意思疎通の重要性】の5つの認識のカテゴリーが抽出された.

(考察)

 教員は,児童・生徒の精神症状による行動が精神疾患に基づくものではなく,個性の1つであると周囲の児童や生徒が捉え,見守る環境づくりを意識していた.これは,いじめに繋がらない環境を整えていることにつながっていると考えられた.いじめは,本人を丸ごと受け止める,本人が信頼する大人が現れることが鍵である3)ことから,精神疾患をもつ児童・生徒を教員を含めた周囲が丸ごと受け止めることが必要であることが示唆された.

(倫理規定)

 本研究は,本学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(2022-05).なお本研究において,開示すべき利益相反はない.

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