千葉県立保健医療大学紀要
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令和4年度学長裁量研究抄録
地域在住高齢者における骨格筋の質と身体活動強度および要介護リスクとの関係
江戸 優裕成田 悠哉島田 美恵子岡村 太郎
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2024 年 15 巻 1 号 p. 1_64

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抄録

(緒言)

 高齢者の健康寿命の延伸には,フレイルやロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)の予防や早期対処が重要である.フレイルやロコモの重要な基礎疾患でもあるサルコペニアは,加齢による骨格筋量の減少として表現されてきたが,近年では筋の量だけでなく質の低下も着目されている1).これは筋の量よりも質の方が加齢変化やトレーニング効果を鋭敏に反映するためであり,今後高齢者の筋の質に着目したさらなる研究が望まれる.

 筋の質的評価には様々な手法があるが,複数の筋質指標を同時に用いた研究は少なく,多角的な調査が必要である.また,筋質は高齢者の健康づくり・介護予防に最も重要な因子の一つである身体活動レベルとの関連も報告されている2).そこで本研究は,各筋質指標と身体活動強度および要介護リスクとの関係を明らかにすることを目的とした.

(研究方法)

 対象は2回/月の体操教室に通う地域在住高齢者18名(男性8名・女性10名:年齢79.7±3.9歳・BMI21.6±3.7:Mean±SD)であった.

 筋質は右下肢のPhase angle(生体電気インピーダンス法により計測),右大腿直筋のエコー輝度(大腿中央の短軸画像から計測),右大腿四頭筋のMuscle quality index(MQI:大腿四頭筋厚に対する等尺性膝伸展トルクの比)の3項目を評価した.なお,Phase angleとMQIは高値,エコー輝度は低値であるほど筋質が良いことを示す.各計測にはマルチ周波数体組成計(MC-780AN,タニタ),超音波画像診断装置(SONIMAGE HS2,コニカミノルタ),徒手筋力計(モービィMT-100,酒井医療)を用いた.

 日常生活における活動強度は,身体活動量計(ライフコーダGS,スズケン)を用いて2022年12月に1ヶ月間測定した.

 要介護リスク関連項目は,基本チェックリスト,要支援・要介護リスク評価尺度に加え,フレイル,ロコモ度,サルコペニアの該当状況も調査した.

 各筋質指標と他の項目の関係について相関分析および年齢・性別を制御した偏相関分析を行った.有意水準は5%とした.

(結果)

 被験者18名の筋質については,Phase angleは3.9±0.7deg,エコー輝度は107.9±17.5a.u.,MQIは285.2±112.8Nm/cmであった.

 日常生活における活動強度については,一日の平均歩数は7,141±3,235歩,中強度(速歩程度)以上の活動時間は24.8±23.1分であった.

 要介護リスク関連項目については,基本チェックリストは3.8±3.3点,要支援・要介護リスク評価尺度は20.6±6.9点であり,プレフレイルは8名,フレイルは1名,ロコモ度Ⅰは8名,Ⅱは7名,Ⅲは2名,サルコペニアは1名,重症サルコペニアは1名が該当した.

 相関分析の結果,各筋質指標は多くの項目と有意な相関を認めた.そして,年齢および性別を制御変数とした偏相関分析の結果,エコー輝度と歩数(r=-0.61)・中強度活動時間(rs=-0.61),Phase angleとフレイル(rs=-0.53)・ロコモ度(rs=-0.72)に有意な相関を認めた.

(考察)

 年齢と性別の影響を除いても,歩行習慣や中強度の運動習慣があるほど大腿直筋の筋質が高いことと,下肢の筋質低下はフレイルやロコモに関与することが示唆された.このことから,速歩程度の強度での運動指導は下肢の筋質を改善し,フレイルやロコモの進行を抑制する可能性があり,そのような関係を検証するコホートあるいは介入研究が期待される.

(倫理規定)

 本研究は本学の研究倫理審査委員会の承認(No. 2022-11)を得て実施した.対象者には研究内容を説明し,研究協力に書面で同意を得た.

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