2025 年 16 巻 1 号 p. 1_151
(緒言)
令和元年国民健康・栄養調査によると,男性の33.0%,女性の22.3%が肥満者であり,糖尿病が強く疑われる者の割合は,男性19.7%,女性10.8%で健康問題となっており,糖尿病性腎症を起こすことに繋がる.日本透析医学会の令和2年度の統計では,透析患者数は347,671人に達し,糖尿病性腎症が最も多く40.7%を占めている.この問題を解決するために,抗酸化作用や内臓脂肪蓄積量の減少などを有するポリフェノールのフラボノイド系のカテキンに注目した.近年では,緑茶と緑茶に含まれる主要なカテキンであるエピガロカテキンガレートが,脂質の代謝調節やインスリンシグナル伝達系の改善に有用であることは示されている.今回の実験では,肥満2型糖尿病モデルラットにカテキンを摂取した際,血中アディポネクチンや腎臓の組織に与える影響などを調べることを目的とした.
(研究方法)
5週齢♂SDT fatty/Jclラットを用いて,4週間実験飼料を投与した.実験飼料には,AIN-93組成に準じた基礎飼料をControl群とし,2.5%カテキン添加した群をCatechin群とした.カテキンは(株)DHCの有機粉末緑茶を用いた.各群6匹ずつとし,飼料と水は自由摂取とした.実験投与終了後,体重増加量,飼料摂取量,肝臓重量,腎臓重量,後腹壁脂肪重量,肝臓脂質濃度,血清アディポネクチン,レプチン,インスリン,グルカゴン,抗酸化力(BAP),酸化ストレス度(d-ROMs)などの測定を行った.肝臓脂質濃度は,クロロホルム:メタノール(2:1)溶液で抽出後,酵素法キットを用いて測定,サイトカインやホルモンに関しては,ELIZA法を用いて測定,BAPとd-ROMsに関しては,ウィスマー社のフリーラジカル解析装置FREEを用いて測定を行った.また,腎臓の組織に関して,摘出後10%ホルマリン固定液に浸漬し,脱水,透徹,包埋し,小型滑走式ミクロトームESM-150Sで薄切した.腎臓の切片はPAS(Periodic Acid Schiff)染色を行い,光学顕微鏡(オリンパスDP22)を用いて観察を行った.
データは,平均±標準誤差(n=6)で表した.統系処理は,PASW Statistics20を用い,群間の比較をStudentのt-testにより行った.検定の結果は,危険率5%未満を有意と判定した.
(結果)
終体重,総飼料摂取量,肝臓及び腎臓重量において,群間における差はなかった.後腹壁脂肪重量は,Control群よりCatechin群で有意(p<0.01)に低値を示した.酸化ストレス,肝臓のトリグリセリド濃度,インスリン濃度は,Control群よりCatechin群で有意(p<0.05)に低値を示した.抗酸化力,肝臓のコレステロール濃度,アディポネクチン濃度,レプチン濃度,グルカゴン濃度で群間における差は見られなかった.腎臓の組織観察において,Control群では,メサンギウム領域が毛細血管腔より大きくなり,糸球体が分葉化していた.ボウマン嚢の基底膜もやや肥厚しており,二重になっている箇所があった.Catechin群では,メサンギウム領域が毛細血管とほぼ同等になった.糸球体はほぼ正常の大きさで,メサンギウム細胞と基質の増加も,ほとんど見られなかった.また,一部はボウマン嚢の基底膜がやや肥厚しているようにみえた.
(考察)
終体重,総飼料摂取量に差がなかったことから,成長は同様にしたと考えられる.後腹壁脂肪重量,酸化ストレスが,Control群よりCatechin群で有意に低値を示したのは,カテキンの脂肪燃焼効果により,体内の脂肪蓄積が低下し,細胞の肥大化が抑制され,酸化ストレスの低下につながったことが示唆された.また,血中アディポネクチン濃度に差がなかったのは,飼育期間が短かったためと考えられる.
腎臓の組織において,Control群はメサンギウム領域が毛細血管腔より大きくなり,糸球体が分葉化しており,メサンギウム増殖腎炎などが考えられる.Catechin群では,糸球体はほぼ正常の大きさで,メサンギウム細胞と基質の増加もほとんど見られなかったが,ボウマン嚢の基底膜の一部がやや肥厚しているようにみえたのは,糖尿病性腎症の初期の症状と推定される.カテキンを添加することで,メサンギウム細胞と基質の増加がほとんど見られなくなり,糖尿病性腎症を抑制することが示唆された.
(倫理規定)
本研究における動物試験は,本学実験指針に基づき「実験動物の飼養および保管並びに苦痛の軽減に関する基準を定める件」を遵守し,本学の動物実験研究倫理審査部会の承認(2023-A004)を得て行った.