2025 年 16 巻 1 号 p. 1_161
(緒言)
2022年の千葉県における高齢化率は27.5%であり,年々増加している.高齢者が口腔を良好な健康状態に保つためには,歯数を維持するとともに口腔機能にも着目する必要がある.Oharaらは,地域在住高齢者の口腔健康の調査で,「歯の数」よりも「硬いものがかみにくい」,「お茶や汁物でむせる」,「口が渇く」などの口腔機能の低下が口腔健康に強く関与していたと報告している.口腔の機能が低下すると,そうでない人と比較し低栄養状態である割合が2.17倍高いと報告されており,早期の口腔機能低下状態のときに,適切な栄養指導や口腔機能を改善する訓練の指導が求められている.
そこで,第5回歯科衛生士研修会では,第1回歯科衛生士研修会と同様の「口腔機能低下症」をテーマとして,口腔機能低下症に関する検査法の確認ならびに検査結果の評価の習得を目的としたリカレント教育プログラムを実施した.また本研修会では,千葉県の「歯・口腔の健康づくり推進条例」の改正や,「第3次千葉県歯・口腔保健計画」について,行政の立場から現状と課題を含めた講義を行った.
本報告では,研修会の概要と研修会終了後に実施した質問調査の結果について報告する.
(研究方法)
第5回千葉県立保健医療大学歯科衛生士研修会に参加した13名を対象とし質問調査を実施した.
本研修会は2024年3月に実施した.内容は,「口の中の構造と役割」,「口腔機能低下症と精密検査法」について講義を行い,口腔機能低下症に対する精密検査法それぞれについて参加者相互で実習を行った.その後,「検査結果の評価や口腔健康管理」,「令和6年度診療報酬改訂に伴う口腔機能低下症の検査に関する変更点」の説明と,共同研究者から「千葉県歯・保健計画」の概要から口腔機能低下症に関わる内容について講義を行った.
本研究会終了後に,Microsoft Formsにて無記名設定の質問調査を実施した.一部自記式多肢選択式とし,質問は参加者自身の振返りからの理解度を検討する内容で,年齢,勤務状況,研修会全体の満足度,研修会前後の理解度,今後の研修会に対する要望や研修テーマとした.
(結果)
本研修会の参加者は13名であり,9名(75.0%)から質問調査の回答を得た.回答者は歯科診療所や行政,歯科衛生士養成校に勤務する歯科衛生士であった.研修会全体ならびに研修会の内容の満足度は,「非常に満足」と「やや満足」を合わせて8名(88.9%)であった.本研修会前の状況は,「口腔機能低下症と検査法の概要」は全員が知っていた.「口腔機能低下症に対する改善法」は,7名(77.8%)が知っていると回答した.研修会後は,「口腔機能低下症に対する検査法の概要」と「口腔機能低下症に対する改善法」はそれぞれ8名(88.9%)が,「診療補助について」は7名(77.8%)が理解できたと回答した.回答者全員が検査の実習が有意義で,本研修会の内容を今後の歯科衛生業務に活用できると回答した.
(考察)
千葉県では,成人期における歯周炎の有病率が増加傾向にあり,歯の喪失による口腔機能の低下が起こり,オーラルフレイル対策が重要であるとされている.したがって,口腔健康管理や必要な口腔機能訓練を行い,口腔機能の維持を図ることが求められている.
本研修会は,口腔機能検査に関する検査法について講義だけではなく実習を取り入れたことから,口腔機能低下を呈する患者の歯科診療補助について情報整理ができたと考えられ,研修は有意義であったと推察された.また,現在,自治体による住民に対する口腔機能検査や歯科口腔健康診査が実施されていることから,口腔機能低下症に関する検査や口腔機能訓練を担当する歯科衛生士の役割は大きくなってきていると考えられた.
また本研修会では,県と本学の連携の開催となり,行政に勤務する歯科衛生士のみならず,参加者全員が新たな情報を得ることができた.
(倫理規定)
本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(2023-12)を得て実施した.
(研究成果の公表)
本報告の概要は,第15回日本歯科衛生教育学会総会・学術大会(大阪)において発表した.