抄録
目的:関節内への高分子HA(HA)注入療法は,変形性関節症に対する有用な治療体系である.これまではHAの作用機序として,関節液の粘弾性の回復や疼痛の改善などが注目されてきたが,最近軟骨代謝そのものに対する改善効果も報告されるようになってきた.今回HAの抗酸化作用に注目した.
方法:ウシ関節軟骨に対して圧迫負荷を加えた.活性酸素およびプロテオグリカン合成を,蛍光色素およびRIにて測定した.抗ニトロタイロシン抗体を用いて,パーオキシナイトライト(PN)の産生を計測した.
結果:軟骨細胞に対する圧迫負荷により,活性酸素が上昇しプロテオグリカン合成が抑制された.同時にPNの増加も組織学的に観察された.高分子HAの添加により,PN産生は低下した.さらに,活性酸素も減少し,プロテオグリカン合成能も回復した.
考察:変形性関節症の発症には,局所における機械的ストレスが重要な役割を果たす.我々は,組織レベルで軟骨細胞に機械的負荷を加え,基質合成能の抑制とともに活性酸素の誘導を証明した.この実験系にHA を添加すると,活性酸素は低下し,基質合成能が回復された.PNは軟骨代謝における重要な酸化ストレスであることが知られている.HA添加によりPNの染色性も低下した.したがって機械的ストレスによる軟骨変性に対して,HAは抗酸化作用により軟骨保護作用を発揮していることが示唆された.
結論:高分子HAは抗酸化作用を有する.