2024 年 21 巻 p. 1-14
本研究は、居住という観点から地域と芸術との関係について考察することを目的とするものである。主たるフィールドとして「池袋」を取り上げる。なお、ここで「池袋」と称する際、現在の豊島区池袋の範囲にとらわれず、かつて雑司ヶ谷と呼ばれたエリアをも念頭に置く。この一帯は近世には江戸近郊の農村であったが、近代以降に鉄道の延伸によって郊外化が進み、人口も増えていった。それに伴い、地方から上京した若い芸術家たちがこの地に集い、新たな芸術の発信地としての側面を見せていく。1920年代から30年代にかけて建設されたアトリエ村には多くの芸術家が居住し、いわゆる「池袋モンパルナス」と呼ばれる環境が形成された。こうした時代に先行するように、明治時代後半から大正時代にかけて、既にこの地域には多くの芸術家が居住していた。本稿では、先行研究の蓄積のある美術に加えて文学も射程に入れつつ、日記や書簡、雑誌等から居住の事実および地域をめぐる言説を積み重ねていく。これらの資料の集積から、ある地域における芸術家の居住そのものを文化資源として位置づける可能性を提示する。