寮歌など旧制高等学校で作られうたい継がれた歌は、『歌集』という形で編纂され保存されている。『歌集』には寮歌の他、校歌、部歌、応援歌、愛唱歌など様々な種類の歌が掲載されているが、旧制第二高等学校の『歌集』は部歌と応援歌の数が多く、またその大半が端艇部の歌という特徴がある。旧制第二高等学校では競技としての体育活動が重視され、特に端艇は対校試合だけではなく、校内で部対抗、クラス対抗のレースが毎年開催された。競技は勝敗よりも生徒同士の融和団結を目的とし、応援のために多くの歌が作られ、教育の要となっていた。しかし勝敗が重視されるようになると応援合戦は過熱し、批判の的となった。
本報告では旧制第二高等学校の『歌集』から端艇部の部歌・応援歌に着目し、対抗試合や部活動が応援という音楽文化活動の原動力となった過程を明らかにした。部歌・応援歌の歌詞と音楽を分析し、うたわれた試合や応援の様子に関する記述を考察し、特徴や意義を検討した。また、これらの歌が現在、変容されながらうたわれている例をあげ、今日の音楽活動へと再生される文化資源としての可能性を示した。