抄録
化学物質のリスクアセスメントが義務化されるが、その普及にあたってはいくつかの課題がある。まず、我が国にはリスクアセスメントの前提となる安全についての理解が十分普及していない。目の前に迫った危険に対応し、それのみをもって安全と理解し、さらには対応したことをもって絶対的な安全状態が確保されたとする受け止め方が少なくない。安全とは何か、どのような状態を指すのかを定義し、安全の構造的な成り立ちを分析した国際的理解水準から大きく乖離した状況にある。この理解水準を正さねばリスクアセスメントの適切な実施は望めない。また、リスクアセスメントは、リスクの度合いを評価し、整理するためのツールであり、整理された情報をマネジメントに生かすことが前提である。しかし、リスクアセスメントを行っただけで労働災害や職業性疾病が直接的に防止されるとする受け止め方が少なくない。情報の活用とマネジメントの重要性が欠落しており、この誤解を正さねば、やはりリスクアセスメントの適切な実施は望めない。