抄録
分子生物学および遺伝子工学の発達によって,腫瘍化を促進する遺伝子や腫瘍増殖を促進する蛋白質を特異的な標的とする分子標的治療薬が開発された.従来の抗腫瘍剤は正常細胞も傷害するが,分子標的薬は基本的には正常細胞は傷つけることなく腫瘍細胞のみを傷害するため,がん治療を大幅に改善することが期待される.
実際,ABL特異的阻害剤メシル酸イマチニブは慢性骨髄性白血病患者の予後を大きく改善し,臨床応用後わずか数年で第一選択薬となった.その他にも血液がんにおいて,多くの有効な分子標的薬が開発され,臨床に用いられるようになっている.このように分子標的薬は希望に満ち溢れているが,海外での開発後日本に導入されるまでの時間の長さ,いわゆる耐性,drug lag や増大傾向にある開発費を反映した高価格などの多くの問題点が残っている.