抄録
濃厚食塩水の皮下注射による自傷症を経験したので報告した.症例は,38歳,女性.3人姉妹の次女.長女結婚後,養子を取るべく婚約したが,破談になり,その後しばらくして突然壊死性病変が出現するようになった.近医,他院で診断不明のまま,約10年間,種々の治療が行われたが新生が続き当科初診,入院となる.初診時,pyoderma gangrenosum を疑った.新生疹の組織像は炎症性細胞浸潤を伴わない血管の拡張,血栓形成.新生疹に針穴有り.自傷を疑う.惨出液の分析によりナトリウムイオンと塩素イオンが異常高値を示した.濃厚食塩水をマウスに注入したところ同様の臨床像を示し組織学的にも血管の拡張,血栓形成が確認された.家族に自傷症の診断を告げたところ病室より350gもの大量の食塩が家族により見つけられた.注射器などは見つがらなかった.以上より濃厚食塩水による急性壊死性病変を呈した自傷症と診断した.