日本皮膚科学会雑誌
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爪甲線状着色症並びにAddison氏病に於ける爪甲の色素沈着に就て
川村 太郎西原 勝雄河崎屋 三郎和泉 俊治田中 弘
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1958 年 68 巻 2 号 p. 76-

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抄録

著者等はさきにAddison氏病に於て爪甲を縱走する褐色の色素帯並びに掌蹠の褐色斑を認めた.そして白人に於ては殆ど記載のない之等現象を見たことは,恐らく邦人皮膚が全般的に色素に富んでいることに因るものであろうと考えた.その後Addison氏病等に因らずして爪甲を縱走する線状乃至帯状の色素沈着に遭遇したので,引続き外来で注意していた所,数カ月間に更に40例を得ることが出来た.斯る爪甲に縱走する着色線條を有する症例の記載は,1914年Ochsの黒人症例に始るが,爾来数多くの報告を見る.然し乍ら欧米に於ける症例の大部分は黒人に関するものであり,白人症例は極めて少く黒人により多発することを思わせ,黒人に於ては寧ろ生理的現象であると説く学者(Monash)もある.之に対して本邦に於ける報告例は比較的多く,大正10年志賀・山口のものに始るがその翌年石丸は12例を報告し本邦に於ては稀ではないとした.以後幾つかの報告が見られ,既に2,3の廣本に於ても人種的色素沈着帯としてその病像を詳しく記載(岡村,加納),邦人に於ては稀ではないとしている.また田﨑は黄色人統計に於て相当の高頻度に本症の見られることを指摘した.之等諸家の報告或は著者等の前記外来に於ける経驗よりして,黄色人種たる本邦人の爪甲帯状着色は稀な現象ではないと思われるが,邦人のみを対象とする統計がないので,その状況を知るべく外来に於ける調査と平行的に多数の健康人に就き檢索し,その比較的高頻度に存することを知つた.反之,此の種病変は白人に於ては極めて稀であるから,之を見た場合には黒色-v疽(melanotic whitlow)への変性が深刻に憂慮されている.然し邦人の場合,斯くの如く爪甲の着色がb\々見られるのであるならば,黒色-v疽が極めて稀であることに鑑み,惡性化の蓋然性は甚だ少いものとしなければならない.猶本疾患の呼称であるが,爪甲線状母斑(N. striatus unguis,Oliver and Bluefarb)が最も弘通するけれども,本症には母斑性のものと非母斑性のものとの兩者があるとの見解(発生機序參照)に基き,標記の病名を妥当と思惟する.以下著者等の檢索成績に就て述べると共に,之を材料とし諸家の所説を勘案して本症の全般に就き若干論ずることとする.

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© 1958 日本皮膚科学会
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