抄録
メラノブラストの発生,メラニン生成の生化学並に神経末梢の組織像等に関する知見の近年に於ける長足の進歩は,色素細胞母斑に於ける諸所見の解釋を根本的にたてなおす事を余儀なくせしめた.豚鼻,土龍鼻,犬鼻等は神経要素の極めて豊富な部位として,古来諸家の研究の対象とされ,またそれ等に於ける所見はb\々人体に移され,それに據つて母斑等に於ける諸現象を説明することが試みられて来た.動物組織に於ける所見を人体にそのまゝ移して考えることは,Johnも指摘したように警戒を要する.例えばMerkel氏細胞の如き,動物には明かに存在するものであつても,人間に之の存在することの甚だ疑しいものがある.先にMerkel氏細胞を母斑細胞の母細胞と考えたMassonも,その新設に於ては,Merkel氏細胞を擧げて居ない.遡つて動物組織の所見そのものについて考えて見ても,過去の記載を再檢討する必要なしとしない.例えばメラノブラストを神経櫛起原性のものと考え(Du Shane,Rawles),表皮をマルピギー系列と樹枝状要素とから合成されたもの(Masson)と看做すとき,Merkel氏細胞等の他のマルピギー細胞と外観を異にする細胞の本態については再檢討を要するものがあろう.之と関連して洞毛殊に其処にあるMerkel氏細胞の所見等も亦檢討の余地がある.因みに洞毛若しくはその遺残物は,母斑発生母地として顧慮される場合がある(伊藤〔昇〕).神経の形態殊に太さについて詳かにすることは,b\々当該神経装置の機能判定に資するものである.神経諸要素並にMerkel氏細胞等の諸要素等は豚鼻の諸部位によつて分布を異にし,また洞毛の密度,形態等も部位によつて分布を異にし,また洞毛の密度,形態等も部位によつて等しくない.之等に関する諸家の記載の不一致の場合,それが檢査部位の相違に因るかに思われる場合もある.從つて著者はこの研究に当つて,先づ豚鼻各部位の皮膚構造を詳細に檢べ,それに基いて各要素の分布を明かにし,然る後に個々の要素自体に就いて檢討を加えるという順序を採つた.