さきに小瀬川は当教室における膿皮症の臨床細菌学的研究の一端を記載して,現在膿皮症の主たる原因菌が強毒性のcoagulase陽性の黄色ブドウ球菌にして,その起源は,上気道あるいは健康皮膚の細菌叢からautogenousに由来せるものと推定される事を明らかにした.その後私は,英國のStaphylococcus Reference Laboratoryより送られた20種のphageとそのpropagating strain(増殖株)とを予研,福見博士の御厚意につて入手したので,当岩手医科大学皮膚科外来を訪れた各種の膿皮症患者から分離したcoagulase陽性の黄色ブドウ球菌についてphage型別(phagetyping)を試みた.したがつて,本論文においては,主として,1)分離菌株のphage型別,2)phage型別と黄色ブドウ球菌の生物学的諸性状との関係,および3)症例別の分離菌株のphage型別の結果より,その病原菌の起源について疫学的調査を行つた結果の3点について報告する.ここに,本邦皮膚科文献を照覧するのに,黄色ブドウ球菌のphage型別に言及するものは,当教室の業績を除けば,僅かに野波他,および山本の報告を認めたに過ぎなかつた.ゆえに私は本論にはいるに先立つて,黄色ブドウ球菌のphage型別の発展の過程を囘顧することもまた意義ありと考える.現在,黄色ブドウ球菌は凝集反應による血清学的型別とphage型別との2つの方法につて分類されている.凝集反應による血清学的分類は,Julianelleによつて創始され,3型に分類されていたが,その後Cowan,Christie & Krogh,Hobbs等による追試研究によつて更に数亞型が加えられ,Oedingにより完成を見るに至つた.最近,Blair & Carrはphage型別と凝集反應による型別との間に関連性を認め,Pillet,Calmels,Orta & ChabanierおよびOeding & Vogelsangは凝集反應による型別とphage型別とを比較檢討し,Pillet et al.は凝集反應で88.6%,phage型別では83.5%が型別可能であるといい,Oeding & Vogelsangもまた凝集反應がphage型別よりも信頼度が高いことを報告している.ひるがえつて黄色ブドウ球菌のphage型別については,Burnet & Lushが2,3の黄色ブドウ球菌の菌株がphageによる感受性によつて分類可能なることを報告せるをもつて臨床的研究の最初としている.次いでWilliams & TimmonsはBurnet & Lushの分離せる4種のphageを使用して骨髄炎より得た黄色ブドウ球菌を6型に分類したが,黄色ブドウ球菌のphage型別に一應の体系化を與えたのはFiskであり,溶原性(lysogenic)黄色ブドウ球菌よりphageを増殖する方法もまた彼によつて始めて記載された.Wilson & AtiknsonはFiskの檢索法に更に改良を加えて,Craigie et al.によりチフス菌のphage型別に使用して成功せるRTD(routine test dilution)による檢査法を始めて黄色ブドウ球菌のphage型別に対して導入した.Fiskの増殖法及びWilson & AtkinsonのRTDによる檢査法の確定はいずれも顯著なる業績にして,今日のphage型別による各種の業績は彼等の研究の成果によるところ多大である.以後,英國においてはPublic Health Laboratory ServiceにおけるAllison,Hobbs & Martinの業續に始まり,Williams & Rippon,Williams,Rippon & Dousett,佛國においてはWahl & Lapeyre-Mesignac,Wahl & Fouace,濠洲においてはRountree,米國においてはBlair & Carr,Jackson,Do-
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