日本皮膚科学会雑誌
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瘙の研究 瘙性皮疹にともなう瘙と起痒性物質ことにペプタイドとの関係に就て 付.瘙性皮疹にともなう瘙とアミノ酸との関係に就ての知見補遺
森部 洋一
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1960 年 70 巻 9 号 p. 882-

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抄録

奥野敎授は瘙の研究を始めた頭初,アミノ酸(グリシン,リジン,アラニンなど),ペプタイドの如きいわゆる起瘙性物質と称する化学物質が瘙の発生に密接な関係を有するのではあるまいかという意見を持つていたが(皮と泌,17,484,昭30),その後の研究により濕疹皮膚炎の如き皮膚の炎症にともなう瘙の発生には必ずしもそのような起痒性物質の存在を必要としないのではないかという見解に変つた.すなわち皮膚の炎症に基く瘙の発生機轉をわれわれは大約つぎの如く解釋している.皮膚に炎症が発生すると炎症部位は必然的に知覚過敏状態に陥る.換言すれば炎症部位では神経線維(疼痛神経線維)の刺激にたいする興奮性が亢進する.興奮性の亢進せる神経線維が病巣の内外から緩徐に刺激されるときに痒感が発生する.而してこのさい病巣内に発生する刺激性物質の有する起痒性の有無は余り関係しないように思われる.従来このように皮膚の炎症に基く瘙の機序を解してきた.而してこのさい問題になるのは炎症部位に於ける知覚過敏,すなわち痒覚過敏状態を疼痛神経線維の興奮性の亢進に基因すると解してよきやという点であるが,このように解釋するのがもつとも合理的な解釋であるという点に就て教室の清水(日皮会誌,69巻,1517,昭34)が詳しく述べた.ちなみに瘙性皮疹にともなう瘙と起痒性物質との関係に就てはなお疑問の余地を残すので,本論文に於いては起痒性物質のうちでとくに重要視されるペプタイド(蛋白に近い分子量を有するポリペプタドからジ・ペプタイド,トリ・ペプタイドの如き分子量の小なるペプタイドまでも包含する)と瘙性皮疹にともなう瘙との關係に就て述べよう.つぎに瘙とアミノ酸との関係に就ては敎室の清水がすでに論じたが,檢出不能に終つたアミノ酸が2,3あるので,清水の定量し得なかつたアミノ酸と瘙との関係に就ても述べることとする.

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