既に第1報に於いて述べた如く著者が農村厚生医学的研究の対象として取り上げた一海濱村(横須賀市長井地区)に於いて從来の報告を遙かに上廻る高罹患率の魚鱗癬患者が見出された.著者は之等の多数の患者に就て疫学的立場から調査を進めて来たが,その際著者は更に之等の尋常性魚鱗癬患者兒童の家系を抽出し檢討を試みたところ,その発生の形式は曽つて伊藤敎授等の指摘した通り遺傳的な要素を多分に示す事が認められた.然し乍ら,本地域は上述の如く極めて高罹患率の魚鱗癬の多発地帯であることを考えると,單に罹患者の家系を抽出する事だけからは或は却つて本疾患が遺傳であると断定することは出来ないのではないかと考えられた.即ち,かゝる多発地域に於いては親にも子にも同様の多発である筈であるから,この爲に抽出方法の如何によつては時に見掛けの遺傳家系を作製する危險がないでもないからであり,言いかえるならば,かゝる多発地域に於いてこそ,遺傳学調査に就いての注意としてb\々引用されるところの「白痴の親は飲酒する」の如き見掛けの因子の導入の危險を犯し易い点はこの際充分警戒されなければならない.この理由により著者は本村に於ける魚鱗癬が多発性のものであればある程,遺傳家系の抽出のみでこれより直ちに本症を遺傳と断定することに躊躇し,かゝる方法のみにより導かれる結論には可なりの危惧を抱いた.前からb\々述べた様に,日本農村に於ける尋常性魚鱗癬の発生頻度は全く不明であり,特に文化の低い地域でどの程度の罹患率が見られるかは未だ判つていない.伊藤敎授等の結論も大学病院を訪れた受診者に就ての統計である以上罹患家系を抽出する以外に方法がなかつたことは止むを得ないが,然し又,以上の見地から之等の結果と本地域の罹患状態を直ちに比較することが出来ない事も又当然であつた.勿論第2報で報告した如く,〔+〕以上の魚鱗癬罹患学童を1人でも有する家系102戸の中,調査完了家系74に就て親の病勢順に子の症状を分類檢討して見れば,親の症状の程度順に子供の症状の程度に軽減の傾向のあることは明かとなつたが,然し之等の中にも例外があつた事も事実であり,更に既にb\々述べて来た如く,元来本症が幼少期から思春期に移るに從つて,かなり軽快する場合の多いこと,又親の現症及び幼少時の症状に就ての供述と,子供の現症との間には信頼度に於いてかなりの程度に差があることを併せ考えると,家系圖的に解析することによつて,直ちに遺傳を論ずることの出来ない点も又この際考慮されねばならなかつた.幸い,著者の調査資料は全村に亘るものであつたので,遺傳関係を檢討する一つの決め手として一應考えられることは,研究の対象に子供のみをとり,就中,兄弟の発症状況に就ての調査結果のみをとつて之を解析することが考えられた.即ち,この種の解析に於いて先づ考えられる一つの方法は,本疾患の兄弟内に起る共発頻度を分布し,それが
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