抄録
毛嚢と皮脂腺(以下脂腺という)は通常それぞれ単独に存在するものではなく,両者は相互に密接な関連を有し,1つの単位ないし構成物として毛嚢脂腺系といわれている.毛嚢脂腺系は各種皮膚疾患に際し複雑な形態学的変化を起してくる.しかるに従来毛嚢あるいは脂腺個々単独の研究業績は多くみられるが,毛嚢脂腺系全体として相互の関連のもとにおこなつた仕事はきわめて少ない.また現在の組織学的方法では毛嚢脂腺系の病態変化を全体として把握することは容易ではない.そこでわたしどもはこれを立体的に観察しようとこころみ,500μ厚切片法を用い,さらにパラフィンワックスによる再構築模型を作製し,毛嚢脂腺系の病態を明らかにせんものと試みた.これについては佐藤が日本皮膚科学会総会において報告し,立体組織形態学stereohistomorphologyと呼称した.また尋常性痤瘡,脂漏性湿疹などについてはすでに報告したところである.円形脱毛症に関しては古来数多くの研究業績が発表されている.しかるに本症の原因に関してはいまだ定説がなく,本症共通の要因もほとんど一定していない現状である.本症の臨床経過も種々様々で,短期間に治癒するものから,長期間単発性脱毛巣が固定して治癒しないもの,脱毛巣が多発し,さらに全頭にまで波及する症例もみられる.本症の主要なる変化が毛,毛嚢にあることは当然であるが,このように不定の経過を示す本症の毛嚢変化については諸家の見解はまちまちで一定していない.一方本症について毛嚢脂腺系を一単位としてこれを立体的に研究した報告は少ない.本症の立体的組織構造についてはVan Scottがbalsa wood modelを用いて観察している.今回著者は立体組織形態学の一環として本症病巣部における毛嚢脂腺系の病態変化を,主として単発性円形脱毛症を対象として,経過に応じてその立体的組織構造について観察した.実験には主として500μ厚切片法を用い,さらに再構築模型を作製し検討した.