抄録
下水汚泥の発生量は,下水道の普及に伴い年々増加しており,下水汚泥を農用資材などとして活用する方法が模索されている.本研究では,新規の資材である下水汚泥炭化物を緑農業利用するための基礎的知見を得るため,乾燥汚泥を約800℃で20分燃焼させて調製した下水汚泥炭化物について,その物性とともに,土壌へ施用した場合の植物生育に対する影響を評価した.1)汚泥炭化物は,平均直径1.4mm,水分含量率1.8%,仮比重0.60g cm^<-3>であり,水分が少なく軽量な取り扱いやすい資材であった.一方,水抽出液のpHは7.2, ECは1.1mS cm^<-1>であり,CECは14cmol_c kg^<-1>とその養分保持能は土壌と同程度であった.2)水と塩酸による連続抽出の結果,汚泥炭化物の水溶性成分としてCaSO_4やMgSO_4が,塩酸可溶性成分としてCa, Mg, Alのリン酸塩がそれぞれ卓越することが明らかとなった.3)全量分析の結果,汚泥炭化物の主要成分はC, Si, P, Al, Fe, Caなどで,それぞれ209g-C kg^<-1>, 84.9g-Si kg^<-1>, 78.9g-P kg^<-1>, 72.4g-Al kg^<-1>, 62.0g-Fe kg^<-1>, 51.1g-Ca kg^<-1>であり,特にPは高濃度であった.このことから,汚泥炭化物はP資材として有用であり得ると考えられた.また微量元素もZn:1.63g kg^<-1>, Cu:1.10g kg^<-1>, Ni:126mg kg^<-1>, Cr:92mg kg^<-1>, Pb:24mg kg^<-1>, Cd:4mg kg^<-1>程度含まれた.4)肥料取締法に基づく公定分析の結果,含有量試験の結果は,As:7.1mg kg^<-1>, Cd:1.8mg kg^<-1>, Hg:0.03mg kg^<-1>, Ni:93mg kg^<-1>, Cr:140mg kg^<-1>, Pb:38mg kg^<-1>とすべて基準値を大きく下回った.このため,今回供試した下水汚泥炭化物は,下水汚泥肥料としての基準を満たすものであると判断された.5)土壌汚染対策法に基づく公定分析の結果,含有量試験(Cd, Cr, Pb, As)と溶出量試験(Cd, Cr, Pb, As, F)の測定値は,いずれも基準値以下であった.このため,汚泥炭化物を農耕地に施用した場合,これらの測定元素による土壌汚染の危険性は低いと判断された.6)ベゴニアを用いた植物栽培試験の結果,砂丘未熟土と黄色土では汚泥炭化物の施用により植物生育量の有意な増加が見られた(それぞれp<0.01, p<0.05).一方,沖積土では,汚泥炭化物の施用に伴う植物生育量の増加傾向が認められたが,黒ボク土ではこのような傾向は認められなかった.以上の結果,下水汚泥炭化物の土壌への施用で植物生育促進効果が示され,その効果は砂丘未熟土や黄色土など理化学性が良好でない土壌において顕著であった.以上の結果,下水汚泥炭化物は農地還元に有用な資材となり得るものと結論された.