抄録
光合成の光補償点は, 二つの生理的要因, すなわち暗呼吸速度と光一光合成曲線の初期勾配の関数として表わされる.この関数が与える等光補償点ダイヤグラムは, 光補償点の温度変化あるいは種間差異に対して両要因がどのように関与しているかを示す.温度上昇にともなうヒバ稚樹の光補償点の上昇は, 光合成の適温付近まではわずかである.これは, 暗呼吸速度が増加するいっぽうで初期勾配が急になるためである.しかし, 高温域では主として暗呼吸速度の増加により光補償点は著しく上昇する.ヒバ稚樹の光補償点は, 適温域で4から6μmol quanta m-2 sec-1であり, 同じ林床に生育する他の木本植物にくらべ高い値を示す.ヒバ稚樹にくらべ, ミズナラ稚樹やヒメアオキで光補償点が低いのは, 暗呼吸速度が低いためであり, ハイイヌガヤで低いのは, 暗呼吸速度が低く初期勾配が大きいことによる.