応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
物理環境による河川環境診断(I)
—リファレンスとの乖離度による評価—
村上 まり恵黒崎 靖介中村 太士五道 仁実楯 慎一郎西 浩司樋村 正雄
著者情報
ジャーナル フリー

2008 年 11 巻 2 号 p. 133-152

詳細
抄録
本研究は,物理環境要素を用いた河川環境の簡便かつ総合的な評価を行うことを目的とし,人為改変の小さいリファレンスとの相違の程度(乖離度)によって任意の地点の評価を行った.「乖離度」とは,河川の物理環境を構成する要素を軸とした多次元空間上における対象サイトとリファレンスの距離と定義した.評価は,リーチスケールで実施した.評価する観点には「人為改変」「生息場の多様性」「河川及び氾濫原の構造」の3つを設定し,各観点を表す具体的な事象を指標として設定した.評価対象は,リファレンスの設定が容易な標津川流域の谷底平野を流下する区域とし,68の調査サイトを設定した.各調査サイトの物理環境は,イギリスで開発・実用化され,河川の物理環境を定量的に把握できる調査手法であるRHSを参考に,筆者らが開発した現地調査手法により把握した.設定した評価観点ごとの主成分分析結果を用いて対象区域を類型区分し,その結果から,最も人為改変が小さい特徴をもつ類型をリファレンスとした.各調査サイトの乖離度を算出した結果,リファレンスの類型に該当したサイトでは乖離度が小さかった.一方,市街地周辺を流下し,人為改変が大きく,淵・州の出現頻度をはじめとした生息場の多様性や蛇行度が小さいなど,複数の指標でリファレンスと異なる特徴を有するサイトでは乖離度が大きな値となった.これより,乖離度は概ねリファレンスとの相違の程度を表していると考えられ,本手法により評価者の主観が入ることなく,河川の物理環境の総合的な評価をより正確に行なうことができたと考える.本評価手法は対象区域に特化して設定したものではなく,また,生物指標による評価と比べて容易に広域な区間を対象にした評価が可能であることから,河川環境のいわば「集団検診」の手法として有用と考える.
著者関連情報
© 2008 応用生態工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top