応用生態工学
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事例研究
透過型堰堤における魚道としての機能
大浜 秀規坪井 潤一
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2009 年 12 巻 1 号 p. 49-56

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抄録

透過型堰堤における魚道としての機能を調査し,設置上の留意点を明らかにすることを目的とした.山梨県内に砂防堰堤は2,244基,治山堰堤は数万基あり,そのうち透過型の砂防堰堤・床固工・谷止工・流木止は計133基であった.この内の81%で,イワナ,アマゴ等の生息が確認された.101基の透過型堰堤について遡上の可否を判定したところ,遡上困難が84基(83%),遡上可能が17基(17%)であった.遡上可能率は透過の型式により異なり,鋼製スリットの一部は50%以上,コンクリートスリット,大暗渠,鋼製スリットの多くでは0~25%であった.遡上の制限要因としては,堤体下流の大きすぎる「落差」が64%と最も多く,次いで速すぎる「流速」が11%であった.「落差」は河床勾配と直線的に回帰し,河床勾配が急なほど生じ易かった.遡上可能と判定された透過型堰堤で,河床勾配が最も急だったのは20.5%で,これより緩やかな場所にある多くの透過型堰堤において,遡上機能を改善できる可能性があると考えられた.また,不透過型堰堤に魚道を付設するより,透過型堰堤の新設あるいは不透過型堰堤のスリット化のほうが効果的であると考えられた.透過型堰堤を魚道として機能させるためには,(1)可能であれば本堤のみのタイプを採用する,(2)大きな「落差」を生じさせない,(3)透過部が広い場合には「水深」を確保するため透過部の横断方向へ高低差をつける,(4)コンクリートスリットでは「流速」が速くなりやすいので流路幅を十分に確保する,(5)河床変動や堆積に対応するため河床付近の透過断面を大きくする,ことが重要であると考えられた.

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© 2009 応用生態工学会
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