応用生態工学
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12 巻, 1 号
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原著論文
  • 中村 智幸, 徳田 幸憲, 高橋 剛一郎
    2009 年 12 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    2005年から2007年にかけて,岐阜県の神通川水系蒲田川の砂防堰堤下流に造成されたイワナ,ヤマメの人工産卵河川において,両種の産卵と当歳魚の生態を調査した.2005年11月に8ヵ所の人工産卵場のうち4ヵ所で,2006年同月に15ヵ所の人工産卵場うち8カ所で多数のイワナの産卵がそれぞれ確認された.両年ともにヤマメの産卵は確認されなかった.2005年のイワナの産着卵数は2,503粒,卵の発眼率は90.0%であった.イワナ当歳魚は4月に産卵床付近で多く観察され,その後経時的に人工産卵河川全体に分散した.この傾向は2006年に強かった.イワナ当歳魚の10月における水表面積1m2当たりの密度と現存量は,2005年級群では0.29個体と2.32g,2006年級群では0.75個体と4.73gであった.10月の尾叉長と体重の平均値は,2005年級群では86.0mmと8.00g,2006年級群では80.2mmと6.31gであった.2005年級群の卵から当歳10月までの生残率は3.2%であった.これらの結果から,人工産卵河川の造成はイワナの増殖に有効であると考えられた.
  • 浅見 和弘, 沖津 二朗, 齋藤 大, 影山 奈美子
    2009 年 12 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    三春ダムの試験湛水前に,サーチャージ水位~常時満水位の範囲で,フクジュソウの群生地を確認した.フクジュソウは,確認当時,「我が国における保護上重要な植物種の現状」((財)日本自然保護協会 (1989) の危急種に該当し,ダムの本格運用前の試験湛水によって,生育個体のほとんどが湛水の影響を受けることが明らかであった.試験的な意味合いから,常時満水位~サーチャージ水位付近にかけてベルト上にコドラートを設置し,コドラート内の個体を残存させ,湛水前後の変遷を12年間,追跡した.試験湛水前に全体で106個体あった開花個体のうち,21日以上冠水した範囲では翌年個体を確認できなかった.それ未満の冠水日数では生き残った個体もあるが,冠水の翌春は開花しなかった.試験湛水直後,開花個体は湛水区域外の3個体のみであったが,その後は回復し,試験湛水から10年後の2007年には28個体,11年後には46個体と増加傾向にある.生育適地は,ダム運用後一部は貯水池に,一部はアズマネザサなどの繁茂により減少したが,当初の約70%は残存しており,今後も個体数は増加すると考えられる.
  • 黒田 英明, 西廣 淳, 鷲谷 いづみ
    2009 年 12 巻 1 号 p. 21-36
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    湖底の土砂中に含まれる散布体バンクは,湖岸植生を再生させる際の材料として有用であることが示唆されている.本研究では,湖内における土砂の採取場所間の種組成および密度の相違に影響する要因を明らかにするため,霞ヶ浦内の12地点の湖底土砂の散布体バンクを実生発生法実験により分析した.散布体バンクからは,全国版レッドリスト掲載種15種,沈水植物15種を含む,合計92分類群の維管束植物および車軸藻類が確認された.土砂採取地点付近の湖岸あるいは堤防法面に現存する植生と,散布体バンクの種組成を比較したところ,その類似性は低かった.散布体バンク中の在来の水生・湿生植物の種数および個体数に対する,土砂採取場所付近における過去の植生帯面積および現在の底質土砂の平均粒径の効果を,一般化線形混合モデルを用いて分析した.その結果,土砂の平均粒径による有意な負の効果が認められた.また,沈水植物の種数および個体数に対して,1970年代前半における沈水植物帯の面積による有意な正の効果が認められた.植生帯再生事業に用いる材料としての湖底の土砂中の散布体バンクの有効性が支持されるとともに,事業に有効な散布体を含む土砂を探索する上で,過去に存在した植生帯の面積や現在の湖底土砂の粒径組成が有用な手がかりとなることが示唆された.
事例研究
  • 萱場 祐一, 野崎 健太郎, 河口 洋一, 皆川 朋子
    2009 年 12 巻 1 号 p. 37-47
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    本研究では河川における平面形状の違いが物質・エネルギーの動態に及ぼす影響を把握することを目的として,標津川の再蛇行化を取り上げ,一次生産速度に及ぼす影響を直線区間と蛇行区間の比較から明らかにし,その要因を分析した.観測結果から,蛇行区間における一次生産速度は直線区間と比較して大きかった.河床付着物中のChl.a が蛇行区間で有意に大きかったことから,両区間における一次生産速度の差は蛇行区間における高い底生藻現存量に起因していると考えられた.また,河床表層を占める河床材粒の粒径は,蛇行区間では瀬・淵構造の発達に伴い相対的に大きく,砂の面積占有率は直線区間で大きかった.更に,蛇行区間では湾曲の影響により,砂は平常時においても掃流状態で流下していたのに対し,蛇行区間では掃流砂が横断方向に偏った分布を有し,横断面の一部でしか確認できなかった.底生藻の現存量が直線区間で相対的に小さく,一次生産速度が減少したのも,このような河床環境の違いを反映したものと考えられた.
  • 大浜 秀規, 坪井 潤一
    2009 年 12 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    透過型堰堤における魚道としての機能を調査し,設置上の留意点を明らかにすることを目的とした.山梨県内に砂防堰堤は2,244基,治山堰堤は数万基あり,そのうち透過型の砂防堰堤・床固工・谷止工・流木止は計133基であった.この内の81%で,イワナ,アマゴ等の生息が確認された.101基の透過型堰堤について遡上の可否を判定したところ,遡上困難が84基(83%),遡上可能が17基(17%)であった.遡上可能率は透過の型式により異なり,鋼製スリットの一部は50%以上,コンクリートスリット,大暗渠,鋼製スリットの多くでは0~25%であった.遡上の制限要因としては,堤体下流の大きすぎる「落差」が64%と最も多く,次いで速すぎる「流速」が11%であった.「落差」は河床勾配と直線的に回帰し,河床勾配が急なほど生じ易かった.遡上可能と判定された透過型堰堤で,河床勾配が最も急だったのは20.5%で,これより緩やかな場所にある多くの透過型堰堤において,遡上機能を改善できる可能性があると考えられた.また,不透過型堰堤に魚道を付設するより,透過型堰堤の新設あるいは不透過型堰堤のスリット化のほうが効果的であると考えられた.透過型堰堤を魚道として機能させるためには,(1)可能であれば本堤のみのタイプを採用する,(2)大きな「落差」を生じさせない,(3)透過部が広い場合には「水深」を確保するため透過部の横断方向へ高低差をつける,(4)コンクリートスリットでは「流速」が速くなりやすいので流路幅を十分に確保する,(5)河床変動や堆積に対応するため河床付近の透過断面を大きくする,ことが重要であると考えられた.
  • 石山 信雄, 渡辺 恵三, 永山 滋也, 中村 太士, 劒持 浩高, 高橋 浩揮, 丸岡 昇, 岩瀬 晴夫
    2009 年 12 巻 1 号 p. 57-66
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    2006年3月に,北海道の真駒内川において,ワイヤーで連結した玉石を複列配置し,岩盤河床を礫河床へと復元する礫床化の現地実験を行った.本研究では,岩盤化が河川性魚類の生息環境,産卵環境に与える影響を明らかにすること,さらに魚類の生息環境,産卵環境に対する実験の効果を検証することを目的とした.実験施設設置後の2007年7~10月に,礫河床区間 (目標区) ,岩盤区間 (対照区) ,実験区間 (復元区) を設け,物理環境,ハナカジカS (小型個体) ,ハナカジカL (大型個体) ,サクラマス幼魚の生息密度,サクラマスの産卵床数を調べた.その結果,岩盤区間では,礫河床区間と異なり礫の堆積が極めて少なかった.また,ハナカジカの生息密度とサクラマスの産卵床数は岩盤区間で低い傾向にあり,河床の岩盤化がこれらに与える負の影響の存在が示唆された.実験区間におけるハナカジカSの生息密度とサクラマスの産卵床数は礫河床区間と同程度であり,実験の効果がみられた.この結果は,小型のハナカジカの生息場ならびにサクラマスの産卵床基質として適した小中礫 (2-64mm) が,実験施設設置後に実験区間において増加したためであると考えられた.一方,実験区間におけるハナカジカLの生息密度は,礫河床区間に比べて有意に低く,岩盤区間と同程度であった.これは,大型のハナカジカにとって有効な生息場となる大巨礫 (>64mm) が,実験区間においてあまり増加しなかったためであると考えられた.本研究では,岩盤化した河川においても,構造物を設置することにより,局所的な礫河床の復元が可能であることが示された.礫河床はハナカジカやサクラマスだけでなく多くの魚種の様々な生活史段階において必要不可欠である.今後は,礫河床の局所的な修復技術だけでなく,流域における土砂収支バランスを考慮した根本的な河川環境の復元手法を検討する必要がある.
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