抄録
2つの体サイズに応じた幼生の微生息場選択性を明らかにすることを目的として,石狩川水系尾白利加川において,カワヤツメ(Lethenteron japonicum)幼生の採集と環境要因を測定した.また,幼生の餌資源利用を議論するために,餌資源の取りこみ実験と安定同位体分析を行った.大型群(5-15cm)の幼生では河床有機物(DOM)と底質硬度,小型群(1-5cm)では底質硬度・流速・底質組成(シルト質)が最良モデルとして選ばれ,これらの要因がカワヤツメ幼生の出現個体数を規定することが明らかとなった.またカワヤツメ幼生の成長と餌資源の取り込みを調べるために飼育実験を行ったところ,落葉リターを与えた処理は体長,湿重量ともに有意に増加することが示された.加えて実験の終了した個体の窒素,炭素安定同位体比分析を行ったところ,実験で用いた幼生が餌資源として与えた落葉リターと藻類の同位体比に誘導され,特に落葉リターにおいてその度合いが高かった.このことから,カワヤツメ幼生はデトリタスを栄養として吸収することが示唆された.以上の野外調査・室内実験から,体サイズの小さなカワヤツメ幼生は自発的に生息環境を選択することができないため,生息河川に柔らかな河床と成長するために落葉リターのような餌資源が最初から必要となる.一方,サイズの大きな幼生は自発的に生息環境を選択し,特に底質中の有機物が多い場所に生息することが明らかとなった.そのためカワヤツメ幼生の生息する河川には,柔らかい泥土が堆積できる多様な河川地形と餌資源の供給源となる河畔林の存在,およびそのような環境が連続して存在することが重要であると推察された.