応用生態工学
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原著論文
炭素・窒素安定同位体自然存在比からみた吉野川の水質汚濁
山田 佳裕中島 沙知
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2010 年 13 巻 1 号 p. 25-36

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抄録
吉野川の物質循環に及ぼすダムや流域の人間活動の影響を明らかにするため, 河川水, 河床堆積物を採取し, 生元素量, 炭素・窒素安定同位体比を測定した. 得られた主な結果をまとめると,
(1) 吉野川本流のダムをはさんだ上下流で水質に大きな変化はなかった. 一方で, 流域における人間活動が増加する中下流で窒素濃度の増加がみられた.
(2) ダム湖内では陸上高等植物が堆積し, その直下流では藻類による一次生産が活発に起こっていることが明らかになった. ダム直下における一次生産の増加は局所的な現象で, 河川全体に及ぼす影響は小さいと考えられた.
(3) 連続したダム群によってほとんどの水がせき止められている支流の銅山川下流では, δ13C・δ15N が最も高く, 河床における富栄養化とそれに伴う明瞭な酸化還元境界が形成されていることが考えられた. このことより, 今後の富栄養化による河床の貧酸素層の拡大が懸念された.
(4) 吉野川中下流において, 河川水中のTN濃度, NO3--N濃度の上昇と河床堆積物中のδ15Nの上昇がみられたことから, 河川水中の窒素濃度の増加要因は, 集水域からの人間活動による窒素負荷が主たるものであると考えられた. 吉野川下流においては, 河川水中の窒素濃度の増加はみられたが, 堆積物中の有機物濃度の増加はみられなかったことから, 流域の人間活動による負荷が河川に蓄積していないことがわかった. しかし, δ15Nが高いことから考えて, 現在の吉野川への負荷は生態系の浄化能力が機能する環境容量の限界にあると考えられた.
最後に, δ13C, δ15Nを用いた手法は河川の物質の起源や循環のプロセスを解析することが可能なことから, 河川とその流域の管理保全に必要な「人間活動の影響」を見積もるために有効であることがわかった.
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© 2010 応用生態工学会
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