抄録
本研究では, 河畔林の伐採を含む河畔植生の差異が引き起こす光環境の変異を小さな空間的スケールで把握し, これに対する付着藻類および刈取食者群集の反応を明らかにすることを目的とした. 調査は愛媛県重信川水系の岩屋小屋川で行った. 河畔林の伐採区域を含む約1,200mの河川区間に, 約17mおきに瀬の流心部に調査地点を設定し, 底生動物およびその生息場所環境を調査した. 開空度には, 河畔林の伐採区, 現存区という河川区間スケールよりも, それ以下の小さな空間的スケールで, 河川区間スケールに近い規模の変異が見られた. この変異は, 林相および下層植生の差異によって引き起こされていると考えられた. 刈取食者の生息密度, 生物体量および分類群数は, 開空度の高い場所で大きな値を示した. 開空度の高い場所では藻類の一次生産量が増加し, 多くの刈取食者が生息していたものと考えられた. また, 開空度の高い場所では生息密度の高い分類群が多く, 多くの分類群においてサンプルに出現する確率が高まったため, 分類群数が増加したものと考えられた. 付着藻類量の決定要因は不明瞭であった. 一般に, 河川内の光量が増加すれば付着藻類の一次生産量は増加すると予想されるが, 刈取食者の摂食によって付着藻類の現存量は抑制されていた可能性が示唆された. 本研究により, 山地河川には河川区間以下の空間的スケールにおいても, 刈取食者群集が反応する程度の光環境の変異があることが示された. この結果は, 山地河川のより統合的な生態系保全を考える上で有用な情報を提供するものと思われる.