抄録
近年は地球温暖化が種の分布や多様性に及ぼす影響について関心が高まっている. 琵琶湖が位置する滋賀県でも気候の温暖化が進み積雪量が年々減少している. そのため, ビワマスをはじめとする狭温性の冷水性淡水魚では河川水温の上昇により深刻な影響を被ると考えられる. そこで, 本研究ではビワマスの産卵生態に関する基礎的知見を得るとともに, 2005年度に実施した調査と同様の調査を, 積雪量が少なかった2008年度に実施した. 水温特性の異なる両年度間で比較することで河川水温の上昇がビワマスの自然再生産におよぼす影響について検討した. 調査の結果, 2008年度は2005年度に比べてビワマスの産卵量が少なく産卵盛期が短期間に集中した. また, 2008年度は暖冬のため河川水温が2005年度と比べて高く推移したことにより稚魚の浮上が早く且つ短期間に集中していた. 既往の知見を参照すると, 現在の河川水温では直接的に卵の生残率に影響を及ぼすことはないと考えられるが, 今後更に温暖化による河川水温の上昇が進行すればビワマスの再生産に何らかの影響が生じることが考えられた.