抄録
治水事業において, 流水抵抗に大きな影響を及ぼす林分構造に関する変数をあきらかにすることは重要なことである. 河畔林の流水抵抗に関する研究の多くは主に水理模型実験により行なわれてきた. しかし, 模型実験では林分構造の動態を考慮することは難しい. 本研究では, 流水抵抗に及ぼす林分構造の影響を堆積土砂の粒度から検討した. これには, D50 (50%粒径), 粘土・シルト含有率細 (<0.075mm), 粘土含有率 (<0.005mm) の三つの粒度を使用し, 次の二つの重回帰分析で検討した. 第一モデルは, D50, 細粒分含有率を目的変数とし, 水面と堆積地との比高, 林分構造 (密度, 枝下高, 胸高総断面積), 林床植生(草丈, カバー)を説明変数としたモデルである. 第二モデルは, 前記の説明変数から, 林床植生を除外した説明変数としたモデルである. これらの結果, 林床植生を考慮したモデルでは, 流水抵抗に影響を及ぼす林分構造因子として, 樹幹密度, 枝下高が抽出された. 林床植生の影響を除外したモデルでは, 流水抵抗に及ぼす林分構造因子を抽出することは困難であった. このことは, 堆積土砂の三つの粒度を用いて, 流水抵抗に及ぼす林分構造の影響を検討する場合には, 微地形, 林床植生の影響を考慮しなければならないことを示唆している. また, 影響があきらかとなった樹幹密度, 枝下高といった林分構造の変数は, 流水抵抗を検討する際に重要と考えられる. 今後, 遷移段階の異なる河畔林において, 流水抵抗への寄与が大きな林分構造因子があきらかになると, 林分構造の時間的, 空間的変化に応じた流水抵抗の検討が可能になるかもしれない.