応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
モクズガニ Eriocheir japonica の河川下流域での微生息環境の利用様式
小林 哲
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 15 巻 1 号 p. 61-70

詳細
抄録
モクズガニ Eriocheir japonica の微生息環境利用様式を,5 月の日中に福岡県の流程数 km の 2 河川で調査した.西郷川下流域の 2 カ所で約 50 m の流路に沿ってコドラート法による定量採集により,河床単位に応じた分布様式を明らかにした (調査 1 ).中川の下流域で 3 列× 25 個の区画 (横断方向と流れの方向にそれぞれ 1 m 幅で設定)において,コドラート法による定量採集を行い,環境要因を測定した (調査 2 ). また 10 月に西郷川下流域で転石の被度面積に対する分布個体の甲幅 ( mm )と転石あたりの分布密度の関係を調査した (調査 3 ).調査 1 と調査 2 でほぼ同様なモクズガニの分布傾向が認められた.モクズガニは河床単位内で集中分布を示し,瀬の環境 (調査 2 では水深 5-15 cm,流速 40-70 cm/sec,底質の粒径 4-50 mm [砂利] -250-500 mm [巨石])に高密度で分布し (約 1 -20 個体/ 0.25 m2),淵 (約 0-5 個体 / 0.25 m2 ; 水深 20-40 cm, 0-20 cm/秒,< 0.025 mm [泥] —0.125- 1 mm [砂]) に比べて瀬を好む傾向が明らかとなった.さらにカニは高い転石被度を好んでいた.しかし実際には,カニの高い密度 (調査 2 では 10-25 個体/0.25m2) は瀬と淵の境界周辺域に認められた.これはモクズガニの流れに対する正の走性と高い移動能力が原因と考えられる.このことから,淵と瀬が繰り返された自然度の高い河川環境が微生息環境として重要であると推察された.転石の被度面積と分布個体の甲幅には有意な相関は認められなかったが,被度面積と分布個体の密度には有意な正の相関が認められた.これは大きな石の間隙がカニのサイズに関係なく多数の個体に利用されることを示しており,モクズガニが河川では特定の隠れ家を占有せず,日和見的に石の間隙を利用していることを反映していると考えられる.堰などの河川横断工作物はモクズガニの分布の集中をもたらすと考えられるが,淵において転石被度を高めることで分布の集中を緩和することも可能であると考えられた.
著者関連情報
© 2012 応用生態工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top