近年,農業活動に伴う泥炭地湖沼の水質汚濁が顕在化しており,水文化学環境の改善が泥炭地湖沼の生態系保全にとって重要な課題となっている.本研究では,このような劣化した泥炭地湖沼の修復に向けた基礎的な知見を得るために,周囲を農地で囲まれ,富栄養化が著しい北海道石狩泥炭地の宮島沼 (湖水面積 : 0.26 km
2, 平均水深 : 0.59 m) を対象に,水収支および全窒素,全リン,Ca
2+ を含む物質収支を,2007・2008 年の湖水の非結氷期 ( 4 -11 月) に調べた.その結果,水路による流入・流出水がそれぞれ全流入水量の 88%,全流出水量の 78%を示し,水収支の大半を占めた.水収支と同様に,物質収支でも,水路による流入出が収支の大部分を占めており,その量は灌漑期 ( 5 - 8 月) に顕著に多くなった.流入物質の由来を検討した結果,水路から湖沼に流入する物質は,主に水田灌漑のために供給される石狩川の河川水に由来するものと考えられた.このように,宮島沼では栄養塩類やミネラルイオンを豊富に含んだ河川水が流入するため,全窒素,全リン,Ca
2+ の流入負荷量が,自然条件の泥炭地湖沼に比べて著しく多かった.灌漑による河川水の供給は,泥炭地湖沼が本来有する水・物質収支の特徴を大きく改変させるとともに,物質の流入負荷量を増加させ,富栄養化をはじめとする水質汚濁をもたらしていると考えられた.
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