応用生態工学
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事例研究
流量変化に伴う河床型構成およびアユの生息密度の変化とそれらの河川維持流量評価への活用
高橋 勇夫谷口 順彦
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2012 年 15 巻 2 号 p. 197-206

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抄録
四万十川の佐賀取水堰下流の減水区間において,河床型を早瀬,平瀬,淵,トロ A 級,トロ B 級の 5 つに区分し,5 段階の流量別に河床型別水面面積を測量した.さらに,水面面積と河床型の構成の変化と,それによって起きるアユの生息数,生息密度の変化から妥当な維持流量を検討した.流量の増加に伴い,アユの生息密度が低い河床型であるトロ B 級は縮小し,生息密度がより高い平瀬,早瀬やトロ A 級が拡大した.しかし,0. 7~0. 9 m3/s/100 km2を超えると河床型の構成に大きな変化が見られなくなった.アユの平均生息密度も比流量 0. 7~0. 9 m3/s/100 km2を超えるとあまり増えなくなった..流量がほとんどない状態から河床型の構成が本来のもの (平水流量程度) に近くなるまでの間は,水面面積の拡大だけでなく,アユに不適な河床型の構成から好適な構成へと質的な変化 (例えばトロ B 級→平瀬やトロ A,平瀬→早瀬) があわせて起きるために,平均密度が大きく増大する.これに対して,河床型の構成が本来のものに近くなった後は,水面面積の拡大が生息数を増やす主要因となるため,平均生息密度はほぼ一定の値を取るようになる.アユの生息環境を改善するにあたって,効率あるいは発電と生息場の保全のバランスという観点からは,平均密度の増大が鈍化し始める流量を維持流量とすることで妥協点を見出すことができた.今回実施した検討方法では,水面面積の拡大と河床型の構成の変化という 2 点から,魚類の生息場としての河川を面的に評価できたという点で意義が大きい.さらにアユの生息数や生息密度を計算することで,生息場の質の改善をも評価することができた.また,流量の増加に伴う河川の変化をアユの生息数および平均密度に反映し,維持流量の評価に用いたことは,専門家だけでなく一般の理解が深まる情報となることが期待される.
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© 2012 応用生態工学会
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