抄録
栃木県那珂川水系箒川に流入する農業水路において,確認された 3 種(ホトケドジョウ,ヒガシシマドジョウ,ナマズ)の魚類の産卵環境の特徴を明らかにするため,水路内に設定した定点(セル)における物理環境の測定と魚類の卵および仔魚の分布状況に関する調査を行った.その結果,各セルは水路幅や水深,流速など物理環境の特徴から 5 つのタイプに分けられた.調査区間内ではホトケドジョウおよびヒガシシマドジョウの卵と仔魚,ナマズの卵が確認された.これらのうちホトケドジョウやヒガシシマドジョウの卵は水路幅や岸からの距離,水深,流速が小さく,植物残渣等の堆積物や植生が存在するタイプのセルで多く確認され,産卵場所として農業水路内の浅い分流のような環境を選択するものと考えられた.また,ホトケドジョウは仔魚も多く確認されたが,これらは卵が確認されたセルよりも水路幅が大きく,植生被度がより高いタイプで多く見られ,仔魚の定着場所として農業水路主流の植生が密生した浅い岸辺を選択するものと考えられた.ナマズの卵はこれらドジョウ類と同様,小さい流速や植物残渣等の堆積物に対する選好性に対する選択性が高かったが,これらの種と異なり大きい水路幅や水深,高い植生被度を併せ持つセルに多く存在した.これらの魚種の保全が可能となる農業水路の構造を検討する際には,以上の知見を反映させる必要がある.