応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
16 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著論文
  • 吉田 豊, 石嶋 久男, 水谷 正一, 後藤 章
    2013 年16 巻1 号 p. 1-11
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/11/29
    ジャーナル フリー
    栃木県那珂川水系箒川に流入する農業水路において,確認された 3 種(ホトケドジョウ,ヒガシシマドジョウ,ナマズ)の魚類の産卵環境の特徴を明らかにするため,水路内に設定した定点(セル)における物理環境の測定と魚類の卵および仔魚の分布状況に関する調査を行った.その結果,各セルは水路幅や水深,流速など物理環境の特徴から 5 つのタイプに分けられた.調査区間内ではホトケドジョウおよびヒガシシマドジョウの卵と仔魚,ナマズの卵が確認された.これらのうちホトケドジョウやヒガシシマドジョウの卵は水路幅や岸からの距離,水深,流速が小さく,植物残渣等の堆積物や植生が存在するタイプのセルで多く確認され,産卵場所として農業水路内の浅い分流のような環境を選択するものと考えられた.また,ホトケドジョウは仔魚も多く確認されたが,これらは卵が確認されたセルよりも水路幅が大きく,植生被度がより高いタイプで多く見られ,仔魚の定着場所として農業水路主流の植生が密生した浅い岸辺を選択するものと考えられた.ナマズの卵はこれらドジョウ類と同様,小さい流速や植物残渣等の堆積物に対する選好性に対する選択性が高かったが,これらの種と異なり大きい水路幅や水深,高い植生被度を併せ持つセルに多く存在した.これらの魚種の保全が可能となる農業水路の構造を検討する際には,以上の知見を反映させる必要がある.
  • 高木 基裕, 柴川 涼平, 清水 孝昭, 大森 浩二, 井上 幹生
    2013 年16 巻1 号 p. 13-22
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/11/29
    ジャーナル フリー
    河川人工構造物は,水生生物個体群の分断化を引き起こす.本研究では,複数の貯水ダムが設置されている吉野川においてオオヨシノボリの遺伝的集団構造の解析および回遊履歴の判定を行い,ダムによる分断の程度を評価することを目的とした.吉野川の大橋ダム上流および下流の 6 地点からオオヨシノボリを 31~50 個体採集し,各個体の胸鰭から DNA を抽出した.マイクロサテライト領域の増幅には Rhi-5-7-11 の 3 種のマーカー座を用い,アリルサイズを決定し遺伝的解析に用いた.耳石による回遊履歴の判定は吉野川下流域から支流の鮎喰川,穴吹川,貞光川,上流域から大橋ダム上流の長沢,長沢ダム上流の越裏門,大森川ダム上流の奥南からそれぞれオオヨシノボリを 1 から 3 個体の耳石を採取し,Sr/Ca 濃度を測定した.遺伝的多様性を示す有効アリル数の平均値は,鮎喰川および貞光川で最も高く(15. 7,15. 9),ダム上流域の個体群で低かった(10. 9~13. 0).一方,ヘテロ接合体率(期待値)の平均値は竹野川(0. 788)を除きダム上流域と下流域で同等の値を示した(0. 870~0. 890).遺伝的異質性検定では,大橋ダムの上流域と下流域の個体群間において有意な差が見られた.耳石Sr/Ca 解析により,大橋ダム上流の個体群のダムによる陸封化が確認された一方,貯水ダムの存在しない鮎喰川,貞光川の個体において降海していない個体が確認された
  • 森 晃, 水谷 正一, 後藤 章
    2013 年16 巻1 号 p. 23-35
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/11/29
    ジャーナル フリー
    近年,ナマズの繁殖場である水田水域の生息環境は悪化し,その個体数は全国的に減少している.ナマズの保全のためには複数の生息地に及ぶ生活史を把握する必要があるが,生態に関する知見は少ないのが現状である.そこで,ナマズの河川における行動生態情報を収集するため,超音波テレメトリーを適用し,小河川において追跡調査を実施した.まず,発信機の装着が魚体に及ぼす影響を室内水槽において検討した.ナマズ成魚 6 尾にダミーを装着し 5 週間観察した結果,体重の減少は見られたが,ダミーの脱落および死亡した個体は見られなかった.また,装着個体を用いて人工産卵を試みたところ,正常に産卵し孵化仔魚の生産に成功した.これらの結果から,発信機装着による生存や繁殖に及ぼす影響は少なく,ナマズに対する装着法として,適用可能であると考えられた.次に水田地帯を流れる谷川において追跡調査を実施した.谷川において捕獲した 5 尾のナマズ成魚に発信機を装着したのちに放流し,複数の受信機を各所に設置し,受信範囲内の装着個体の行動を約 1 年間モニタリングした.結果として 5 個体のうち 3 個体は 100 日以上モニタリングすることができた.次に,受信データを解析したところ,装着個体の行動パターンに季節変化が生じた.秋季にかけて 2 尾の装着個体の信号は,夜間に多く受信され昼間はほとんど受信されない規則的なパターンを示した.これは,日中は巣内で休息し,夜間に巣外で行動していたという夜行性活動パターンであると考えられた.一方,冬季にかけて 3 尾の装着個体の信号は昼夜同程度受信されるパターンを示した.このことから,冬季には昼夜活動を維持していたと考えられた.今回の研究により,ナマズの行動生態の情報を収集することができたが,手法による限界も判明した.今後は電波テレメトリーを併用することによりナマズの保全の際に必要な基礎的な行動生態情報を収集することが必要である.
事例研究
  • 土岐 範彦, 大杉 奉功, 中沢 重一, 鎌田 健太郎, 熊澤 一正, 浅見 和弘, 中井 克樹
    2013 年16 巻1 号 p. 37-50
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/11/29
    ジャーナル フリー
    福島県阿武隈川水系三春ダムの蛇石川前貯水池は,水質保全を目的として設置した前貯水池の一つであり,2006 年にはオオクチバスが優占していた.2006 年 10 月に水質保全の試験のため,前貯水池内の水を抜き,湖底を 2 ヶ月間干し上げた.その際,魚類の全量捕獲を行い,捕獲したオオクチバスは駆除し,在来魚等は再放流した.魚類の捕獲は前貯水池内で 2 箇所,前貯水池堤体下流で 1 箇所の計 3 箇所で行ったが,捕獲状況からオオクチバスは貯水池内に広く生息している傾向が示唆された.一方,ギンブナの小型個体は貯水池堤体近くの深いところに集まっている傾向がみられた.また,ギンブナとコイの大型個体はダム流入部付近の水深 2 m 以浅に生息している傾向がみられた.水抜きの 2 年後にはオオクチバスの個体数割合は 2006 年と同等になった.これは,流路沿い等に取り切れなかった個体が存在した可能性等が考えられる.他の事例同様,複数回の水抜きを行わないと完全駆除は困難と考えられた.
短報
  • 小室 隆, 山室 真澄
    2013 年16 巻1 号 p. 51-59
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/11/29
    ジャーナル フリー
    島根県に位置する宍道湖を対象に,1947 年 10 月に撮影された米軍空中写真を用いて,沈水植物を含む水草の分布範囲を復元した.沈水植物の判読は,「水域や砂地より暗く,輪郭部が丸みをおび,波の下に存在する」という基準に従って行った.写真判読の結果,沈水植物以外の水草(抽水植物・浮葉植物)は湖内では確認されなかった.現在の宍道湖では自然再生としてヨシが植栽されているが,抽水植物が確認されたのは流入河川の一部に限られた.浮葉植物,もしくは水面上まで葉を伸ばす沈水植物は,全写真で確認できなかった.沈水植物の面積は約 3 km2 と計算された.また当時 3 m とされていた透明度は,本研究の結果では 4 m 以上と判断された.現在は泥質である水深 4 m の湖底の一部は,光を強く反射し白くなっていることや,一部の写真で白い部分に砂漣が認められたことから,砂質であったと推定された.沈水植物は,宍道湖北岸中央部で最深となる水深 4 m まで繁茂していた.宍道湖では近年,葉を水面まで展開するタイプの沈水植物が侵入している.本研究の結果から,これらは過去に優占していた種・タイプではないことが確認された.
feedback
Top