応用生態工学
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原著論文
人工構造物による渓流魚個体群の分断化
— 源頭から波及する絶滅 —
菊地 修吾井上 幹生
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2014 年 17 巻 1 号 p. 17-28

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抄録

愛媛県・石手川源流域のアマゴを対象に,治山・砂防ダムによる個体群分断化の影響について,どの程度の生息域サイズで個体群縮小による局所絶滅が顕在化しているかを検討した.69 の調査区間を設け,各区間においてアマゴの生息密度を調査するとともに,流程上の位置(調査区間上流側の集水域面積),生息域サイズ(隔離集水面積:調査区間の下流側に存在する移動阻害構造物より上流側の集水域面積),および標高や淵面積といった環境要素を計測した.なお,調査流域には 57 の移動阻害構造物が確認された.アマゴの有無を応答変数,環境要素を説明変数とした分類木分析の結果,アマゴの有無は,流程上の位置と隔離集水域面積で説明され,アマゴの分布上限が集水域面積 0.49 km2 付近に位置することと,移動阻害構造物の影響は集水域面積 0.49~0.89 km2 程度の最上流域で顕在化していることが示唆された.また,アマゴ生息密度には,より上流の区間ほど高くなるという傾向がみとめられ,上流ほど質の高い生息場所である可能性も示唆された.集水域面積とそこに含まれる流路長,水面幅,およびアマゴの生息密度との関係から,任意の集水域面積における個体群サイズを推定した.その結果,アマゴの局所絶滅が顕在化している場所(集水域面積<0.9 km2)は,源頭(アマゴの分布上限)から下流側 500~600 m までの範囲に位置し,そこでの集団サイズは成魚 40~50 個体程度と推定された.今回の結果より,源頭部からの局所絶滅をもたらす人工構造物の影響は深刻であり,これまで軽視されてきたと思われる最上流域の水系末端部からの連続性の維持こそが渓流魚個体群の保全にとって重要であることが示唆された.また,既存の研究と今回の結果を基に,渓流魚個体群を存続させるために必要な生息域(連続性を確保すべき範囲)を検討し,絶滅確率と優先度を基にした段階的な目標設定が可能なことを提案した(危急域:集水域面積 2 km2;最低必要生息域:4 km2;必要生息域:10 km2;目標範囲:40 km2).

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© 2014 応用生態工学会
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