応用生態工学
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原著論文
ダム湖が河川水質に与える影響の隣接類似河川との比較による評価
— 岩手県綱取ダムの排水操作を含む水質変動 —
辻 盛生鈴木 正貴平塚 明
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2014 年 17 巻 1 号 p. 1-15

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抄録

ダムによる水の滞留が下流域の水質に与える影響について,流域が隣接する同規模の河川と比較した.さらに,調査期間内にダム装置補修の目的で貯水池の排水操作が行われ,それに伴う下流域への影響を検証した.融雪期においてはどちらの河川も硝酸態窒素の上昇と EC およびSiO32-の低下傾向が確認された.雪に付着した大気中の硝酸が,融雪と共に土中のミネラルを溶かし込まずに表流水として流出することが要因と考えられた.降雨や融雪による増水時,排水操作期間において SS 値の上昇が見られた.上昇するのは主に無機物由来の SS であり,有機物量は少なく変動も小さかった.ダム貯水池による Chl-a 上昇の傾向が見られたが,その値は 5μg/L 程度であり,植物プランクトンの増殖による影響は少なかった.BOD 値も対照河川に比べると高い傾向が見られたが,平均値では 1 mg/L 未満をほぼ満たした.これは,ダムの容量が比較的小さいことと,流入河川のリン含有量が少ないことが植物プランクトンの増殖を抑制したことが要因と考えられる.水温は夏期において 5℃ 程度上昇する傾向が見られた.ダムの排水操作期間においては,SS の上昇および NH4-N の上昇が見られた.しかしながら,その値は下流水域の生物に影響を与える数値には至らなかった.

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© 2014 応用生態工学会
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