応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
17 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著論文
  • — 岩手県綱取ダムの排水操作を含む水質変動 —
    辻 盛生, 鈴木 正貴, 平塚 明
    2014 年 17 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 2014/10/30
    公開日: 2014/12/08
    ジャーナル フリー
    ダムによる水の滞留が下流域の水質に与える影響について,流域が隣接する同規模の河川と比較した.さらに,調査期間内にダム装置補修の目的で貯水池の排水操作が行われ,それに伴う下流域への影響を検証した.融雪期においてはどちらの河川も硝酸態窒素の上昇と EC およびSiO32-の低下傾向が確認された.雪に付着した大気中の硝酸が,融雪と共に土中のミネラルを溶かし込まずに表流水として流出することが要因と考えられた.降雨や融雪による増水時,排水操作期間において SS 値の上昇が見られた.上昇するのは主に無機物由来の SS であり,有機物量は少なく変動も小さかった.ダム貯水池による Chl-a 上昇の傾向が見られたが,その値は 5μg/L 程度であり,植物プランクトンの増殖による影響は少なかった.BOD 値も対照河川に比べると高い傾向が見られたが,平均値では 1 mg/L 未満をほぼ満たした.これは,ダムの容量が比較的小さいことと,流入河川のリン含有量が少ないことが植物プランクトンの増殖を抑制したことが要因と考えられる.水温は夏期において 5℃ 程度上昇する傾向が見られた.ダムの排水操作期間においては,SS の上昇および NH4-N の上昇が見られた.しかしながら,その値は下流水域の生物に影響を与える数値には至らなかった.
  • — 源頭から波及する絶滅 —
    菊地 修吾, 井上 幹生
    2014 年 17 巻 1 号 p. 17-28
    発行日: 2014/10/30
    公開日: 2014/12/08
    ジャーナル フリー
    愛媛県・石手川源流域のアマゴを対象に,治山・砂防ダムによる個体群分断化の影響について,どの程度の生息域サイズで個体群縮小による局所絶滅が顕在化しているかを検討した.69 の調査区間を設け,各区間においてアマゴの生息密度を調査するとともに,流程上の位置(調査区間上流側の集水域面積),生息域サイズ(隔離集水面積:調査区間の下流側に存在する移動阻害構造物より上流側の集水域面積),および標高や淵面積といった環境要素を計測した.なお,調査流域には 57 の移動阻害構造物が確認された.アマゴの有無を応答変数,環境要素を説明変数とした分類木分析の結果,アマゴの有無は,流程上の位置と隔離集水域面積で説明され,アマゴの分布上限が集水域面積 0.49 km2 付近に位置することと,移動阻害構造物の影響は集水域面積 0.49~0.89 km2 程度の最上流域で顕在化していることが示唆された.また,アマゴ生息密度には,より上流の区間ほど高くなるという傾向がみとめられ,上流ほど質の高い生息場所である可能性も示唆された.集水域面積とそこに含まれる流路長,水面幅,およびアマゴの生息密度との関係から,任意の集水域面積における個体群サイズを推定した.その結果,アマゴの局所絶滅が顕在化している場所(集水域面積<0.9 km2)は,源頭(アマゴの分布上限)から下流側 500~600 m までの範囲に位置し,そこでの集団サイズは成魚 40~50 個体程度と推定された.今回の結果より,源頭部からの局所絶滅をもたらす人工構造物の影響は深刻であり,これまで軽視されてきたと思われる最上流域の水系末端部からの連続性の維持こそが渓流魚個体群の保全にとって重要であることが示唆された.また,既存の研究と今回の結果を基に,渓流魚個体群を存続させるために必要な生息域(連続性を確保すべき範囲)を検討し,絶滅確率と優先度を基にした段階的な目標設定が可能なことを提案した(危急域:集水域面積 2 km2;最低必要生息域:4 km2;必要生息域:10 km2;目標範囲:40 km2).
事例研究
  • 永山 滋也, 原田 守啓, 萱場 祐一, 根岸 淳二郎
    2014 年 17 巻 1 号 p. 29-40
    発行日: 2014/10/30
    公開日: 2014/12/08
    ジャーナル フリー
    直轄区間における河川整備計画や自然再生計画の立案に寄与することを目的に,セグメント 2 に区分される低平な自然堤防帯を流れる沖積低地河川において,イシガイ類を指標生物とした河道内氾濫原環境の簡易な評価手法を開発し,精度検証,評価結果の活用例の提示,課題の抽出を行った.開発した評価手法のフローを以下に示す.まず,(1) イシガイ類の生息可能性を 3 段階評価で表す “回帰モデル評価マップ” と,(2) 氾濫原水域の有無を 2 段階評価で表す “氾濫原水域マップ” を作成する.そして,(3) それらの評価の組み合わせから得られる 6 段階の評価区分を面的に展開した “総合評価マップ” を作成する.高い汎用性を実現するため,評価に要するデータは,直轄区間で一般に取得可能なもののみとした.また,回帰モデルの説明変数として冠水頻度を用い,評価単位として 50 m の正方形メッシュを採用した.精度検証の結果,イシガイ類の生息水域 17 箇所中 15 箇所 (88.2%)は,モデル評価値が高く,氾濫原水域もある最も高い評価区分に該当した.また,非生息水域 20 箇所中 13 箇所 (65.0%)は,氾濫原水域がないと判定される評価区分,もしくは水域はあるが生息可能性がやや劣るとみなされる評価区分に該当していた.以上から,本評価手法は,イシガイ類の面的な生息分布を一定の精度で予測でき,河道内氾濫原環境の現状評価に使用可能であると考えられた.ただし,構築したイシガイ類の生息に関する回帰モデルの適用範囲は,本研究対象地のように,陸域の樹林化が進行した低地河川に限定される.そのため,今後は,異なる特性を持つ河道で適用可能なモデルを構築する必要がある.また,冠水頻度を面的に表現するために行った水位観測所を基準とした水位変動特性の内挿法は,勾配の不連続点や変化点を考慮できていないため,今後は,この点を改善する必要がある.
  • 三浦 一輝, 斉藤 裕也, 伊藤 一雄, 大森 秋郎
    2014 年 17 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2014/10/30
    公開日: 2014/12/08
    ジャーナル フリー
    埼玉県川島町における農業水路の改修工事に伴い,水路幅 1 m,長さ約 190 m の対象水路に高密度に生息していた希少生物マツカサガイの個体の救出と一時保管作業を行った.救出作業は淡水二枚貝の採捕経験がない者でも行えるよう,水を抜いた水路底あるいは掘削した底泥から熊手を用いて行った.また,マツカサガイは冬季には底質中に比較的深く潜行することから,パワーショベルを用いて表層 20 cm 以浅の底泥を掘削してその中からマツカサガイの回収を試みた.保管作業は,マツカサガイが定位するための底質を用意し室内で保管する方法と,底質を用意せず野外の池で簡便に保管する方法の 2 つを試み,3 ヶ月間保管した.結果,2 つの救出作業により 741 個体のマツカサガイが回収された.また,パワーショベルにより掘削した底泥からの個体の回収により全体の 17%にあたる 127 個体のマツカサガイが回収された.2 つの保管作業の結果,目視による死亡が確認された個体はなかった.これらの結果から,作業者の採捕経験の有無に関わらず作業を行えるように工夫を施すこと,パワーショベルを使用した掘削など,表層のみの採捕では救出できない個体や,底質深くに定位していた個体を回収する工夫を施すことは重要であると考えられた.但し,本事例では 20 mm 以下の小型の個体の有無の確認や回収は行うことができず,今後の事前調査や救出作業の工夫が求められた.また,2 つの保管作業は冬季において数ヶ月の間,個体を生きたまま保管できると考えられた.但し,個体が痩せるなどの生理的な状況については評価できておらず,より個体への負荷が少ない方法を確立する必要がある.今後,水路改修後の再生産の有無や生残数をモニタリングし,可能なかぎり順応的な管理を行っていく予定である.
短報
  • 下田 和孝, 長坂 晶子, 長坂 有
    2014 年 17 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2014/10/30
    公開日: 2014/12/08
    ジャーナル フリー
    北海道の石狩湾沿岸の 7 河川で,サクラマス幼魚,水生藻類および陸上植物の炭素・窒素安定同位体比と河畔や流域の土地利用との関連性を調べた.土地利用割合を主成分分析で解析したところ,第 1 主成分の寄与率は 47~57%,因子負荷量は人工林率と農地率の正の値が高いとともに,天然林率と自然草原率の負の値も高かった.水生藻類とサクラマス幼魚の窒素安定同位体比は,主成分分析の第 1 主成分得点と正の相関を示した.この結果は,流域や河畔に農地や人工林の多い河川ほど河川生態系全体の窒素安定同位体比が高くなることを示唆し,これらの窒素安定同位体比は河川生態系に及ぼす人為的影響の診断指標として活用できるものと考えられた.
feedback
Top