抄録
農業生態系は,その本来的な役割として食料生産がある.同時に農業生態系は,多面的機能と呼ばれる様々な機能をもたらす重要な生態系である.圃場整備をはじめとした土地の集約・大規模化は効率的な食料生産を目指す近代農業に欠かせないが,その結果として生物多様性の低下をもたらすことが指摘されている.本研究は,近代農業における一つの重要要素である圃場整備を軸に,既往文献およびデータベースを活用することで,全国の農地から特に高い食料生産機能を有すると考えられる地,特に高い生物多様性の保全機能を有すると考えられる地それぞれの抽出を試みた.具体的には,圃場整備がなされ,単位面積あたりの農地が多い地域を,近代的な大規模農業が可能な地として生産重点区(PA)とし,様々な生物へ生息場を提供しうる未整備農地を持ち,かつ指標性を持つ絶滅危惧植物が分布する地を重要ハビタットポテンシャル区(HA)として抽出し,その空間的な分布を地図として視覚化した.その結果,食料区の多くは北海道に分布し,保全区の多くは本州以南に分布することが示された.こういった国土スケールで卓越した機能の分布を示すことは,将来にわたる農業活動において極めて重要な役割を持つだろう.