応用生態工学
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19 巻, 2 号
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原著論文
  • 中田 和義, 宮武 優太, 川井 健太, 小林 蒼茉, 咸 成南, 齋藤 稔, 青江 洋
    2017 年 19 巻 2 号 p. 117-130
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    国内希少野生動植物種であるスイゲンゼニタナゴが生息する農業水路において,本種にとっての好適な微生息環境を創出するためには,その生息に影響を及ぼす環境要因を把握する必要がある.そこで本研究では,農業水路においてスイゲンゼニタナゴが選好する環境を解明することを目的に,2014 年 6 月~2015 年 5 月の毎月,本種が生息する岡山県南部の農業水路で魚類調査と物理環境調査を行った. スイゲンゼニタナゴの在/ 不在を目的変数,各環境要因を説明変数として,季節ごとに一般化線形モデル(GLM)あるいは一般化推定方程式(GEE)を用いて解析し,AIC あるいは QICu を基準にモデル選択を行った結果,スイゲンゼニタナゴの出現に有意に影響する環境要因としては,正の効果では春期および夏・秋期の沈水植物の植被率と冬期の障害物および水上カバーの存在が,負の効果では春期の流速が選択された.したがって,スイゲンゼニタナゴの出現に重要となる環境要因は,季節によって異なることが明らかとなった.また,スイゲンゼニタナゴが出現した地点の水深と流速の月ごとの平均値については,季節にかかわらず,水深では 20~50 cm 程度の水域(調査期間全体での平均水深 37.7 cm),流速では 11.5 cm/s 未満の緩流域(調査期間全体での平均流速 3.4 cm/s)に限られていた.以上から,農業水路において,本種の保全策として好適な生息環境を創出する場合には,沈水植物と水上カバーの存在に加えて,流速 11.5 cm/s 未満(平均流速 3.5 cm/s 程度)の緩流域と 20~50 cm 程度の水深を伴う生息環境を整えることが重要と考えられた.
  • 永山 滋也, 原田 守啓, 佐川 志朗, 萱場 祐一
    2017 年 19 巻 2 号 p. 131-142
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    高水敷掘削を活用して,河道内氾濫原環境を効率的に管理するための知見を得るため,揖斐川の自然堤防帯(セグメント 2)において,高水敷掘削によって創出されたイシガイ類生息環境と掘削高さおよび経過年数との関係を検討した. 高さおよび施工年が異なる掘削工区においてイシガイ類の生息調査を行うとともに,土砂堆積厚と掘削後に形成された水域の数と面積を時系列で整理した.そして,工区を解析単位として,累積土砂堆積厚,イシガイ類の生息量と生息水域の割合,ならびに水域数と水域面積が,掘削高さおよび経過年数とどのような関係にあるか検討した. 本調査地では,掘削高さが低いほど(ただし,渇水位より高い),イシガイ類の生息量と生息水域割合は高く,累積土砂堆積厚と堆積速度は小さかった.しかし,継続的な土砂堆積を背景として,イシガイ類の生息場となる水域自体の量は,掘削後 6~9 年目に,また水域内におけるイシガイ類の生息量は掘削後 5 年目に最大となったが,その後,減少に転じる傾向が示された.これらの結果は,生息水域の量も加味した場合,5~9 年ほど経過した低い掘削工区において,イシガイ類の生息量が高くなることを示唆する.以上の結果から,揖斐川では,掘削高さが低く,掘削後 5 ~9 年が経過した掘削工区が対象区間内に常に一定量存在するよう,治水目的の整備と調整を図りながら,計画的に高水敷掘削を実施することが,氾濫原環境の維持管理上望ましいと考えられた.また,これらの結果は,掘削後に土砂の再堆積が進む他の河川においても,管理方策に示唆を与える.
総説
  • 石山 信雄, 永山 滋也, 岩瀬 晴夫, 赤坂 卓美, 中村 太士
    2017 年 19 巻 2 号 p. 143-164
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    現在日本の河川は,ダムや連続堤防等の様々な人為的改変の影響を受け,流程に沿った水域のつながりである「縦断的な連結性」と,河川- 氾濫原間の水域のつながりである「横断的な連結性」の両タイプの連結性を著しく失っている.本論では,国内の河川における連結性および生物多様性の向上を目的とし,分断化要因や再生手法について国内外の既存文献のレビューを行い,個々の再生手法の特徴や実施上の留意点,我が国における水域ネットワーク再生の現状と課題について整理した.縦断的連結性の再生手法として,物理的な分断化を対象とした 3 タイプ,水温や水質悪化による移動阻害を対象とした 1 タイプが認められた.また,横断的な連結性の再生については,河道内および河道外氾濫原を対象とした再生手法として計 7 タイプが確認された.これら多様な再生手法には,効果が特定の種に限定される傾向にあるもの,不適切な方法・箇所での実施によりさらなる連結性や河川環境のさらなる劣化につながる危険性を有するものも認められ,国内でのさらなる普及のためには,順応的管理等を通じて個別の技術的な課題を解決する必要があることも明らかとなった. 人間活動の淡水環境や周辺の土地への依存度の変化に伴い,実施可能な再生手法も変化する.特に,河川構造物や土地利用の増加により,本来の自然プロセスの復元が難しい現状では,代替的な連結性に着目した「創出」や「部分的プロセス再生」といった再生タイプが主流の対策となる.一方,人口減少や横断構造物の老朽化といった変化が予想される今後は,河川横断構造物の撤去など自然プロセス自体を復元する「全体的プロセス再生」の推進が期待できる.再生箇所の優先順位付けは事業効果の向上の鍵であり,特に,設置数も多く連結性低下に深刻な影響を及ぼしている砂防堰堤等の小型河川横断構造物のデータベース化が喫緊の課題と言える.
  • 厳島 怜, 佐藤 辰郎, 西田 健人, 真砂 祐貴, 坂田 知謙, 島谷 幸宏
    2017 年 19 巻 2 号 p. 165-180
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    本稿では,山地河道において特徴的な step-pool 構造に関する既往の知見を基本的な特徴,形成・破壊過程,物理的特性及び生息場としての機能を中心に整理し,河川技術への応用可能性について示した. 第 1 に基本的な特徴について,step-pool の形成要因や発生領域を河床勾配に着目して整理した.第 2 に形成・破壊過程について形成条件を流れや土砂の状態に着目して説明し,形成・破壊流量について既往の知見を整理した.形成過程については反砂堆理論と keystone 理論があり,両者の過程が混在しており,技術的観点から両者の成因を活用した自然再生,河川改修技術の構築の必要性を指摘した.第 3 に step-pool 構造と河道特性の関係を step 間隔と河床勾配の関係を中心にまとめた.これらは気候・土砂供給条件などによって地域的な差異が大きく,普遍的な知見の構築には更なる研究が必要であることを指摘した.第 4 に step-pool に関連する物理的特性について整理を行い,現在提案されている山地河道を対象とした流速公式,抵抗則をまとめた.最後に生物生息場としての機能や自然再生の事例を紹介した.これらを通じ,step-pool 構造のエネルギー減勢及び落差緩和機能が河道改修技術として応用可能性が高いことを指摘し,今後必要となる研究を示した.
  • 久加 朋子, 竹林 洋史, 藤田 正治, 木村 一郎, 清水 康行
    2017 年 19 巻 2 号 p. 181-201
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    Spur dikes have been constructed to redirect the stream flow, protect streambanks from erosion, and improve stream depth for navigation since long time ago. In addition, in recent years, spur dikes are expected to be used as one of the restoration methods on aquatic habitats as they produce local scours and sediment deposition areas around them. There have been significant number of papers about spur dikes and abutments, however, almost all the above-mentioned studies did not target the characteristics of sediment transport and bed deformation around spur dikes set on a inerodible bed field in great details. In this paper, the authors summarized the characteristics of flow, sediment transport, and bed deformation around both spur dikes and abatements set on erodible and inerodible bed fields in natural rivers, experimental flume, and numerical analysis. Subsequently, as a method to create sediment deposition areas along the both banks on inerodible bed field, acute angle of submerged spur dikes were introduced.
事例研究
  • 浅見 和弘, 影山 奈美子, 山内 尚也, 米内 祐史, 沖津 二朗, 小山 幸男
    2017 年 19 巻 2 号 p. 203-210
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    三春ダムでは,河床礫に付着した古い付着藻類を定期的に更新することなどを目的に,2000 年から 10~20 m3/s のフラッシュ放流を実施している.本事例研究では,ダム下流河川の平瀬のデータから付着藻類の剥離に効果的なフラッシュ放流のタイミングを検討した. フラッシュ放流の付着藻類量に対する効果は,直前の付着藻類量によって異なり,クロロフィル a 量が15 μg/cm2 以上だった場合には効果があると考えられた.クロロフィル a 量が 15 μg/cm2 以上だったのは,10 m3/s 以上の出水が 7 日間以上無かった場合だった.したがって,フラッシュ放流予定日前の 7 日間の流況が安定している場合には,付着藻類量が多くなり,フラッシュ放流による剥離効果が大きいと考えられた.
  • 大澤 剛士, 三橋 弘宗
    2017 年 19 巻 2 号 p. 211-220
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    農業生態系は,その本来的な役割として食料生産がある.同時に農業生態系は,多面的機能と呼ばれる様々な機能をもたらす重要な生態系である.圃場整備をはじめとした土地の集約・大規模化は効率的な食料生産を目指す近代農業に欠かせないが,その結果として生物多様性の低下をもたらすことが指摘されている.本研究は,近代農業における一つの重要要素である圃場整備を軸に,既往文献およびデータベースを活用することで,全国の農地から特に高い食料生産機能を有すると考えられる地,特に高い生物多様性の保全機能を有すると考えられる地それぞれの抽出を試みた.具体的には,圃場整備がなされ,単位面積あたりの農地が多い地域を,近代的な大規模農業が可能な地として生産重点区(PA)とし,様々な生物へ生息場を提供しうる未整備農地を持ち,かつ指標性を持つ絶滅危惧植物が分布する地を重要ハビタットポテンシャル区(HA)として抽出し,その空間的な分布を地図として視覚化した.その結果,食料区の多くは北海道に分布し,保全区の多くは本州以南に分布することが示された.こういった国土スケールで卓越した機能の分布を示すことは,将来にわたる農業活動において極めて重要な役割を持つだろう.
  • 岸 大弼, 德原 哲也
    2017 年 19 巻 2 号 p. 221-231
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    旧河道の転用あるいは流路の新規掘削により造成されたイワナの人工産卵河川では,水源を確保するだけでなく,産卵適地を創出するための整備作業が実施される.本研究では,産卵場の整備作業の必要性を検証するため,岐阜県下呂市馬瀬の川上(かおれ)地区の人工産卵河川において産卵適地の割合を定量的に評価した.また,本調査地における人工産卵河川の効果を検証するため,イワナの産卵状況を調査した. 本研究では,木曽川水系馬瀬川の旧河道にトンネルからの湧水が流入して形成された流路を人工産卵河川に転用し,2009 年に 6 箇所の産卵場を整備した.物理環境の調査は,産卵場の整備前と整備後に実施し,産卵適地(水深 5-30 cm,流速 5-30 cm/s,河床材料サイズ 9-32 mm の 3 条件を満たす地点)の割合を比較した.産卵場の整備後,イワナの産卵床数,卵数およびその生残率を調査し,卵数と生残率については水深と流速の影響を検討した. 産卵適地の割合は,産卵場の整備前の 2.0%から整備後は 11.1%に増加し,整備作業を実施することの必要性が裏付けられた.イワナの真の産卵床は 10 箇所のうち 8 箇所がそれらの産卵場に形成され,整備作業が再生産に寄与していることが確認された.ただし,整備した産卵場 6 箇所のうち 2 箇所は産卵に利用されなかった.卵数およびその生残率には,水深と流速以外の要因が影響していることが示唆された.卵数は産卵床によって 9-611 粒と差異が大きかったが,これは雌親魚の体サイズに起因するものと考えられた.全産卵床の卵の生残率は 68.9%,各産卵床の平均生残率は 66.1%と良好な値ではなかった.今後は,産卵場の選択や卵の生残に影響する要因として,砂利の厚さや河床の透水性についても検証する必要があると考えられた.
  • 高橋 勇夫, 岸野 底
    2017 年 19 巻 2 号 p. 233-243
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    近年,アユの漁獲量の減少が進む中で,天然アユを増やす取り組みが各地で始まっている.天然アユ資源を保全するにあたっては,まず,資源量とその変動を明らかにすることが基本となる.本研究では高知県奈半利川において,2006~2012 年の 7 年間にわたって,アユ漁の解禁前の 5 月と漁期終了後の 10 月にアユの生息数を潜水目視法によって推定した.さらに,河川生活期におけるアユの減耗率を算定し,アユの生息と関わる要因との関係について検討した. 2006~2012 年のアユの生息数は 5 月時点で 14.5~154 万尾,10 月時点で 5.5~42 万尾と推定された.生息数から計算される 5 ~10 月の間の減耗率は 30~76%(平均 56%)であった.奈半利川における減耗率は他河川の事例と比較して,平均的な減耗率は低いものの年変動が大きいことが特徴的であった.減耗率は漁獲強度(漁獲人数),初期資源量,降雨強度,最大濁度とは相関が認められなかったが,比較的低レベルの濁度(20~50 mg/L)の日数割合や平均濁度と有意な相関が認められ,低レベルの濁度でもそれが長期化することでアユの減耗に関わることが示唆された.近年では河川が濁りやすくなっていることが指摘されているため,アユの生残に対する濁りの影響に関してはより一層の注意が求められる.
  • 辻 盛生, 加藤 渓, 鈴木 正貴
    2017 年 19 巻 2 号 p. 245-257
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    河川の低水護岸に際し,自然素材を用いた護岸構造物が用いられることが多い.ここでは,同一河川において 6 種の低水護岸および 1 種の植物からなる水際部における魚類の生息状況について,2012年の 5 月,7月,10 月において調査した.その結果,植物を伴い,流速の緩やかな浅水域を持つ調査区において通年で採捕尾数,種数共に多くなった.遊泳魚は 5 月には植生河岸に多く, 7 月,10 月には水深のある水域に進出が見られるものの, 10 月においては流速や水深に変化のある調査区に偏在する傾向が見られた.また,遊泳魚の小型個体は,抽水植物の生育する水際にのみに出現した.このことから,遊泳魚が生活史を全うするために,稚魚の成長および成魚の低水温季の生息のための抽水植物が生育する水際と,成魚が生息する多様な水深・流速環境を持つ水域が必要といえる.一方,カジカを主とする底生魚は,護岸構造よりも浮き石構造を持つ河床形態に依存する可能性が示唆された.したがって,自然素材を用いた低水護岸であっても,河道が直線化され,流れや河床構造が単調になることによって,遊泳魚,底生魚共にハビタットを劣化させてしまう可能性が示唆された.
トピックス
訂正
  • 2017 年 19 巻 2 号 p. 275
    発行日: 2017/01/28
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
    応用生態工学 19 巻 1 号 p.42(2016)の図 5 に誤りがありました.
    以下に修正して掲載いたします.

    著者および読者の皆様に心よりお詫び申し上げます. (応用生態工学編集委員会)
    冨岡繁則・北方真理子・長岐孝司・沖津二朗・浅見和弘・西條一彦(2016)河川水辺の国勢調査とショッカー船調査による北上川水系 3 ダムにおけるオオクチバス生息状況の比較.応用生態工学 19(1): 37-46

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