応用生態工学
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事例研究
岐阜県下呂市馬瀬に整備された人工産卵河川の物理環境およびイワナの産卵状況
岸 大弼德原 哲也
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2017 年 19 巻 2 号 p. 221-231

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抄録

旧河道の転用あるいは流路の新規掘削により造成されたイワナの人工産卵河川では,水源を確保するだけでなく,産卵適地を創出するための整備作業が実施される.本研究では,産卵場の整備作業の必要性を検証するため,岐阜県下呂市馬瀬の川上(かおれ)地区の人工産卵河川において産卵適地の割合を定量的に評価した.また,本調査地における人工産卵河川の効果を検証するため,イワナの産卵状況を調査した. 本研究では,木曽川水系馬瀬川の旧河道にトンネルからの湧水が流入して形成された流路を人工産卵河川に転用し,2009 年に 6 箇所の産卵場を整備した.物理環境の調査は,産卵場の整備前と整備後に実施し,産卵適地(水深 5-30 cm,流速 5-30 cm/s,河床材料サイズ 9-32 mm の 3 条件を満たす地点)の割合を比較した.産卵場の整備後,イワナの産卵床数,卵数およびその生残率を調査し,卵数と生残率については水深と流速の影響を検討した. 産卵適地の割合は,産卵場の整備前の 2.0%から整備後は 11.1%に増加し,整備作業を実施することの必要性が裏付けられた.イワナの真の産卵床は 10 箇所のうち 8 箇所がそれらの産卵場に形成され,整備作業が再生産に寄与していることが確認された.ただし,整備した産卵場 6 箇所のうち 2 箇所は産卵に利用されなかった.卵数およびその生残率には,水深と流速以外の要因が影響していることが示唆された.卵数は産卵床によって 9-611 粒と差異が大きかったが,これは雌親魚の体サイズに起因するものと考えられた.全産卵床の卵の生残率は 68.9%,各産卵床の平均生残率は 66.1%と良好な値ではなかった.今後は,産卵場の選択や卵の生残に影響する要因として,砂利の厚さや河床の透水性についても検証する必要があると考えられた.

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© 2017 応用生態工学会
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