応用生態工学
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事例研究
岡山県南部の農業水路における希少タナゴ類の人工産卵床利用
中田 和義小林 蒼茉川本 逸平宮武 優太青江 洋
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2017 年 20 巻 1 号 p. 33-41

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抄録

本研究では,国内希少野生動植物種のスイゲンゼニタナゴを含む希少タナゴ類の保全手法の 1 つとして,人工産卵床に着目した.そして,希少タナゴ類が産卵場として利用する人工産卵床の二枚貝類の条件を解明することを目的とし,岡山県南部の農業水路に人工産卵床を設置する野外実験を行った. 本実験では,タナゴ類の繁殖期である 2014 年 3 月から 8 月に,二枚貝類 3 種(イシガイ,マツカサガイ,トンガリササノハガイ)を収容した長さ 50 cm × 幅 36 cm × 高さ 8 cm の長方形型トレーを人工産卵床として農業水路の実験地点に設置した.実験は第 1 ~7 期の実験期間を設けて実施し,1 期当たりの期間は 3 週間とした.各実験期間の終了後,人工産卵床の二枚貝類は実験室の水槽内で個体別に飼育し,二枚貝類から浮出する仔魚の個体数記録と種同定を行った.実験の結果,人工産卵床の二枚貝類からは,全実験期間を通して合計 679 個体のタナゴ類の仔魚が浮出した.その内訳は,イシガイから 420 個体,マツカサガイから 259 個体であり,トンガリササノハガイからの仔魚の浮出はなかった.生残した仔魚の種同定の結果,人工産卵床の二枚貝類から浮出した種は,個体数が多かった順にタイリクバラタナゴ,アブラボテ,ヤリタナゴ,カネヒラの 4 種であった.秋産卵型のカネヒラについては,本実験の実施前年に産卵したと考えられ,個体数は 9 個体のみであった.出現個体数の多かったタイリクバラタナゴ,アブラボテ,ヤリタナゴの二枚貝種選好性については,タイリクバラタナゴがイシガイとマツカサガイから浮出したのに対して,アブラボテとヤリタナゴはマツカサガイからのみ浮出が確認された.マツカサガイから浮出した仔魚の個体数は,タナゴ類 3 種間で有意差がみられ,タイリクバラタナゴに比べてアブラボテとヤリタナゴの浮出個体数が多かった.また,1 個体のイシガイとマツカサガイからは,それぞれ最大で 22 個体と 16 個体の仔魚が浮出した.同一個体のイシガイおよびマツカサガイから,タナゴ類 2 種または 3 種の仔魚が浮出した例も確認された.本実験では,スイゲンゼニタナゴの人工産卵床の利用は確認されなかった.今後の研究では,スイゲンゼニタナゴが人工産卵床を利用する条件を解明する必要がある.

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© 2017 応用生態工学会
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