応用生態工学
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原著論文
環境 DNA 解析に基づく宮城県名取川水系中流域における水生昆虫群集構造の時系列変化
内田 典子久保田 健吾会田 俊介風間 聡
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2020 年 23 巻 1 号 p. 21-36

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抄録

本研究は,水生昆虫相を対象として,一般的な調査手法であるコドラートつきサーバーネットによる定量採集法と,環境 DNA メタバーコーディングの 2 手法を用いて,環境 DNA によって群集構造の時系列変化を捉えることができるか検討した.宮城県名取川水系広瀬川および名取川の中流域に位置する 2 地点において,2016 年 5 月から 12 月にかけて月に 1 度の頻度で調査を実施した.河川水サンプルから抽出された DNA を,ミトコンドリア DNA の Cytochrome Oxidase subunit 1 領域を対象としたユニバーサルプライマーを用いてメタバーコーディング解析に供し,水生昆虫を多く含む 8 目(カゲロウ目,カワゲラ目,トビケラ目,ハエ目,コウチュウ目,トンボ目,カメムシ目,ヘビトンボ目)に属する配列について解析した.採集された水生昆虫は形態同定を行い,得られた分類群および群集構造は,環境 DNA により推定されたものと比較した.その結果,群集を構成する科レベル分類群はハエ目とカゲロウ目が多い点,および攪乱後に総分類群数が減少したのち増加する時系列変化が両手法において一致する傾向を示した.また,環境 DNA から得られた配列数およびサーバーネットで定量採集された個体数を用いて,撹乱に対する機能分類群ごとの群集構造の時系列変化を表した結果,撹乱後初期に遊泳型の割合が増加したのち経時的に匍匐型が優占していく遷移過程が,それぞれの手法から確認された.サーバーネットにより多く採集された分類群は,環境 DNA においても多くの配列が得られる傾向にあった.本研究の結果より,水生昆虫群集を対象とした環境 DNA メタバーコーディングから得られた塩基配列数による相対存在率により,群集構造の時系列変化傾向が捉えられることを示した.

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