応用生態工学
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ナマズの行動解析手法としての  PIT  タグの有効性: 幼魚に対する装着の影響評価と小河川における適用事例
森 晃
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2020 年 23 巻 1 号 p. 69-77

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抄録

ナマズは近年,生息環境の悪化により個体数が全国的に減少しているが,幼魚期の知見は不足しているため,生活史全体を考慮した効果的な保全は困難である.絶滅が危惧されている淡魚の生態解明には,PIT タグ(以下,タグ)が活用されている.しかし,タグをナマズの幼魚に適用し,野0外でタグ個体を追跡した例はみられない.そこで,本研究では野外においてタグを用い,ナマズのとくに幼魚から生態学的情報を収集することを目的とした.そのために,第 1 にタグの装着が幼魚に及ぼす影響を評価し,第 2 にタグを装着した個体を放流し追跡調査を実施した.第 3 に今後の課題について検討した.まず,タグの装着が幼魚に与える影響を屋内の水槽において検証した.その結果,タグを装着した 18 尾のナマズ幼魚のうち,死亡した個体はなく,切開痕についても約 20 日後には自然治癒した.また,タグの脱落がなかったこと,コントロール群とタグ群の間に成長の差がなかったことから,ナマズの幼魚に対するタグの装着は可能であると考えられた.次に,栃木県宇都宮市の谷川において追跡調査を実施した.合計 21 尾のナマズにタグを装着したのちに放流し,読取機とポータブルアンテナを用いてタグ個体の位置情報や利用環境について記録した.その結果,探査可能距離などの制限があったにもかかわらず 12 尾の個体の追跡に成功したことから,タグを用いた追跡が本種の生態学的情報を得ることが可能であることが示された.今後の課題としては,追跡の成功率を上げるために調査労力(頻度や範囲)を増やすこと,成魚には検出範囲の広い大型のタグを装着することが挙げられた.これらの改善点を適用することで,探査効率は向上し,ナマズの移動特性や選好環境などの情報を効率的に収集できると考えられる.

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