応用生態工学
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23 巻, 2 号
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原著論文
  • 宮脇 成生, 伊川 耕太, 鈴木 研二, 鈴置 由紀洋, 池内 幸司
    2021 年23 巻2 号 p. 261-278
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    本研究では河川域における植生図作成に,近年進展著しい高解像度の人工衛星画像と地形情報および機械学習を用いる手法の開発を行った.荒川を対象に人工衛星で取得した画像(解像度 0.5 m)を使用してオブジェクトベース分類を行った.各オブジェクトに,衛星画像のスペクトル情報と植生指数,および地形情報(平水位,比高,水際からの距離)を付与し,機械学習(Random Forests,Support Vector Machine)による植生判別モデルを作成し,対象地の植生を判別した.植生判別モデルは 6 タイプの植生区分に対して作成し,河川水辺の国勢調査で作成した植生図と比較した.その結果,地形データを使用することで植生判別の精度が向上することを確認した.さらに,機械学習に用いる学習データの量を 10%まで減らした際,いずれの植生区分においても Support Vector Machine の判別精度が最も高いという結果が得られた.また,学習データでデータ数が少ない植生区分が発生する場合,植生判別の精度が低下した.現地調査データを用いて,小さなサンプリング率で植生分類を行う際は,学習データの数が小さくなりすぎないように,植生タイプ毎の調査地点数をコントロールする必要があることが示された.

  • 渡邉 崚, 中尾 航平, 平石 優美子, 釣 健司, 山中 裕樹, 遊磨 正秀, 丸山 敦
    2021 年23 巻2 号 p. 279-293
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    ゲンジボタル(Luciola cruciata)は,観光資源や環境指標種として注目されるが,近年,都市化などの人為的影響や大規模な出水による攪乱で個体数は減少しているとされる.保全に不可欠なゲンジボタルの個体数調査は,成虫を目視計数することが多く,幼虫の捕獲調査は破壊的であるため避けられている.本研究では,環境 DNA 分析用の種特異的なプライマーセットを設計し,野外でのゲンジボタル幼虫の定量の可否を検証することで,幼虫の非破壊的な定量調査を提案する.さらに,ゲンジボタルの個体群サイズを制限するイベントを探索することが可能か否かを検証する第一歩として,前世代と同世代の成虫個体数を同地点で計数し,環境 DNA 濃度との関係も調べた.データベースの DNA 配列情報を基に,ゲンジボタルの DNA のみを種特異的に増幅させる非定量プライマーセットⅠ,定量プライマー・プローブセットⅡを設計した.種特異性は,当該種ゲンジボタルおよび最近縁種ヘイケボタルの肉片から抽出した DNA で確認された.定量性は,両種を模した人工合成 DNA の希釈系列に対する定量 PCR によって確認された.プライマー・プローブセットⅡが野外にも適用可能かを確認すべく,2018 年 11 月に野外で採取された環境水に由来する環境 DNA 試料に対して定量 PCR を行った.その結果,環境 DNA 濃度と同時期に捕獲された幼虫個体数との間には正の関係が示された.最後に,幼虫捕獲数および環境 DNA 濃度,その前後の繁殖期の成虫個体数との関係を調べたところ,幼虫捕獲数と前後の成虫個体数には関係は得られなかった.一方,同時期の環境 DNA 濃度との間には負の関係すら得られた.これらの不一致は,長い幼虫期に個体数変動をもたらすイベントが存在することを示唆している.本研究は,野外において,ゲンジボタル幼虫の個体数と環境 DNA 濃度が正相関することを示した初の報告である.今後,幼虫期の定期モニタリングが可能となり,個体数変動を起こすイベントの探索が期待される

  • 有賀 望, 森田 健太郎, 有賀 誠, 植田 和俊, 渡辺 恵三, 中村 太士
    2021 年23 巻2 号 p. 295-307
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    北海道札幌市を流れる豊平川では,1980 年代にまとまった個体数のサケの遡上が再開し,近年の調査では自然産卵由来の野生魚の遡上が平均 700 尾まで回復した.一方で,河川整備が進み,本来の扇状地河川が持つ礫河原の地形は失われてきた.川で自然再生産する野生サケにとって,河川地形の変化は繁殖に影響を与えていると考えられる.そこで,豊平川における地形因子(最深河床高変化量,平均河床高変化量,平均粒径,低水路の比高差,産卵期の水面幅,澪筋移動距離,産卵期の分流数,地下水位差)の変化とそれがサケの産卵環境に与える影響について検証した.その結果,豊平川の河川地形は,上流・中流区間で河床高が低下し,河床材料の粒径が大きくなる傾向が顕著であった.また,低水路の比高差は大きくなり,サケ産卵期の水面幅は狭まり,澪筋移動距離が減少する傾向だった.一方,上流と中流では地下水が流出しやすい傾向に変化していた.主成分分析の結果,砂利が移動するような低水路内の攪乱の受けやすさを示す主成分 1 と湧水の出やすさと粗粒化していない河床を示す主成分 2 が抽出された.主成分 1 と 2 は,共にサケの産卵床数と有意な正の相関があり,サケの産卵適地を表す指標の一つとして有効であると考えられた.サケの産卵床は,いずれの年においても下流区間に集中しており,2010 年以降は上流にも分布するようになった.主成分 2 は経年的にプラスの方向に変化していたが,主成分 1 は経年的に減少しており,サケの自然再生産に負の影響を及ぼしていることが懸念された.都市河川において,治水と環境のバランスをとることは難しい課題であるが,豊平川のサケはその歴史を背景に,治水,利水,環境のバランスを保った河川を目指すための貴重な環境アイコンであり,自然再生産を維持するためには,"動く川"すなわち流路変動と砂礫堆の移動が常に起こるような河川を目指す必要がある.

事例研究
  • 安藤 義範, 清久 笑子, 千田 良道, 大知 寿徳, 山本 佳華, 波田 善夫
    2021 年23 巻2 号 p. 309-317
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    浮葉植物の絶滅危惧種オニバスの保全に資するため,3 次元レーザースキャナーによる計測を行った.調査地は岡山県を流れる一級河川の百間川であり,2 ヶ所のオニバス群落分布地を調査対象とした.調査は 2017 年 9月13 日に実施した.調査地点の一つである人工ワンドでは点群データの集合によってオニバスの葉群分布,葉の形状が可視化できた.UAV 撮影によるオルソ画像ではマルバヤナギの枝に上層を覆われたオニバスが視認できなかったことから,3 次元レーザースキャナーは,上空から死角となる場所の計測に有効であった.もう一つの調査地点である二の荒手改修地(百間川の治水施設)では,オニバスを囲んでヒシが密に生育しており,平面的な可視化では植物高の差が小さいため,オニバスの葉群のみを抽出することが難しかった. 本調査では,これまでに事例のある抽水植物以外に,浮葉植物の計測にも応用できることを明らかにできた.

  • 浅見 和弘, 大林 直, 影山 奈美子, 白戸 孝
    2021 年23 巻2 号 p. 319-329
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    三春ダムでは平常時最高貯水位~洪水貯留準備水位までの水位差 8 m の範囲で,イタチハギが目立ってきた.本研究では,イタチハギ伐採後の目標植生を三春ダム湖畔に自生しているタチヤナギやシロヤナギの群落とし,ヤナギ類 2 種がイタチハギより優勢になるまでの伐採条件を求めることとした.ヤナギ類 2 種は 6 月と 12 月に挿し木で植栽したが,植栽後に冠水する 12 月よりも,植栽後約半年間冠水しなかった 6 月植栽の方が活着率は高かった.三春ダムでは定期的に冠水するため,ヤナギ類の植栽適期は限定され 6 月が望ましい結果となった.イタチハギを複数回伐採したが,13 ヶ月に 3 回の伐採では少なく,今回の場合は生長期の伐採 1 回 / 年× 2 ヶ年でも不十分であった.一方,2 ヶ年で合計 5 回の伐採(生長期 2 ~ 3 回/ 年)では効果が見られ,伐採後 3 ヶ年までは,挿し木したヤナギ類 2 種の方が伐採したイタチハギよりも樹高成長速度が大きく,有効であった.本研究の対象地であるダム湖畔の法面は年間 100 日以上冠水することが,先行事例と異なる.しかし,イタチハギの抑制に必要な伐採回数は既存事例(久保 2012;大貫ほか 2013)の冠水しない法面と変わらなかった.つまり,冠水はイタチハギ伐採後の再生長 を抑制せず,4 年目には植栽したヤナギ類の樹高と有意差が少なくなり,再度イタチハギを伐採することが望ましい結果となった.

  • 石原 隆史, 小坂 秀樹, 林 直也, 佐野峯 勉, 髙田 雪風, 由井 正敏
    2021 年23 巻2 号 p. 331-340
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    本報告は東日本大震災の復興道路建設に伴う自主的な環境影響評価により,対象事業実施区域内にオオタカの営巣が確認され,人工巣による営巣地の誘導が保全措置として実施されたため,人工巣の検討・実施の経緯を詳しく紹介し,今後のオオタカの保全措置の参考となることを目指したものである.当初の人工巣は,対象事業実施区域から可能な限り遠方に設置して誘導を試みたが,設置から 2 年後の工事中に新たな自然巣がもとの自然巣から 260 m の巣間距離で発見された.その実態を踏まえて方針を見直し,直近に利用された自然巣から 260 m 以内に新たな人工巣を設置した結果,3 年目にオオタカの営巣と繁殖成功が確認できたほか,工事完了後には自然巣に戻っての繁殖成功を確認した.以上より,人工巣は工事中の繁殖中断等のリスク低減に一定程度寄与したと考えられた.本事例から得られた結果により,人工巣の利用率を高めるには,自然巣や工事中箇所からの距離,傾斜度などの架巣木の条件を考慮することが望ましいと考えられた.

短報
  • 上田 航, 福﨑 健太, 三宅 洋
    2021 年23 巻2 号 p. 341-347
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    河床に生息する生物に対する攪乱強度を評価するための簡易かつ適用性の高い手法として Pfankuch 法がある.しかし,この手法は自然度の高い山地河川への適用を想定しており,人為的改変の進行した河川や平地河川への適用可能性は明らかになっていない.本研究は,愛媛県道後平野を流れる複数河川にて Pfankuch 法を用いた河床攪乱の評価を実施し,河床攪乱が平地河川の底生動物群集に及ぼす影響を解明することを目的とした.これにより Pfankuch 法の平地河川への適用性を評価するとともに,平地河川での利用可能性の向上に資する情報を得ることを目的とした.2018 年 9 月に愛媛県道後平野を流れる 10 河川にて調査地を実施した.底生動物の採集を行うとともに,Pfankuch 法(底質要素)による河床安定性の評価を行った.これにより得られた Pfankuch index(PI)に加え,平地河川において典型的に見られる水質悪化の影響を考慮した修正 PI を算出した.底生動物の生息密度および分類群数を応答変数,PI および修正 PI を説明変数とした一般化線形モデルによる解析を行った.PI および修正 PI には調査地間で著しいばらつきが見られた.解析の結果,底生動物の生息密度は PI の値が大きくなるほど低下することが明らかになった.修正後の PI に関しても底生動物の生息密度との間に負の関係がみられたが,関係性の向上の程度は小さかった.本研究により,Pfankuch 法は人為的な改変の進行した平地河川においても底生動物に対する攪乱強度の評価手法として適用可能であることが示唆された.しかし,スコア修正による適用性の改善効果は大きくなかったため,今後は修正方法の改善も含めたさらなる試行が求められる.

  • 鈴木 享子, 原田 貴之, 有賀 望, 吉冨 友恭
    2021 年23 巻2 号 p. 349-356
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー
    本研究では,琴似発寒川におけるサケとサクラマスの産卵床分布を調べるとともに,産卵床の物理環境を計測した.また,産卵期終了後に産卵床内の水温を測定し,冬季の河川水との水温差に着目して伏流水の有無を確認した.その結果,両種の産卵床分布は同一河川内で明瞭に分かれ,JR 函館本線高架下を境にサクラマスでは主に上流区間に分布し,サケでは下流区間にのみ分布していた.産卵床を構成する礫の粒径はサクラマスよりサケの方が有意に大きかった.伏流水の確認では,上流区間の河川水温とサクラマスの産卵床内の水温の間に有意差は認められず,伏流水は確認されなかった.一方,下流区間では河川水温に対しサケの産卵床内の水温が有意に高く,伏流水が湧出していることが確認された.本調査地は発寒扇状地と呼ばれる地形的特徴を有しており,サケの産卵床は発寒扇状地扇端部からの伏流水湧出箇所に形成されていることが明らかになった.一方,サクラマスの産卵床は主に扇端部より上流側でみられ,伏流水が確認されなかったことから,サクラマスの産卵場選択は伏流水の有無に左右されない可能性が示唆された.両種の産卵適地には地形的特徴や伏流水の湧出,河床材料組成など複数の環境条件が関連していることが考えられる.また,自然再生産には海洋から産卵場までの連続性が保たれていることが前提となるが,琴似発寒川では魚道の整備により産卵親魚が産卵場まで遡上可能になっているものと推察される.サケ科魚類の自然再生産には,産卵に適した生息環境と産卵場まで遡上可能な河川環境の保全や整備が不可欠である.都市部を流れる河川は人為的影響が大きいため,今後もモニタリングを続けるとともに,野生個体群の評価と保全に向けて知見を蓄積する必要があるだろう.
レポート
  • 青木 崇, 青木 克憲, 枡本 拓
    2021 年23 巻2 号 p. 357-363
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    東日本旅客鉄道株式会社が所有する信濃川発電所宮中取水ダムの魚道は,ダムの設置と同じ 1939 年に設置され,2011 年度に実施した 2 度目の魚道構造改善により大型魚道,小型魚道,せせらぎ魚道の 3 種の魚道を新設.また,親水性向上や環境教育の場の提供を図り,地域との共生を目指すと共に,河川環境と水力発電との調和に向けて取り組んでいくことを目的に,せせらぎ魚道と合わせて魚道観察室を新設.せせらぎ魚道は,15 cm 程度の玉石とコンクリートの隔壁により流路とたまり場を構築する設計となっており,水深は 0.15 m,流速は 0.54 m/s と設定されている.宮中取水ダム魚道で実施しているモニタリングの結果,2015 年度以降のせせらぎ魚道では 12~16 種類,魚道全体の約 6~8 割の魚種が確認されており,底生魚や遊泳力の小さな魚類の重要な魚道となっている.せせらぎ魚道と魚道周辺に多くの植物が生育しており,植生の繁茂により流路やたまり場が閉塞する懸念やせせらぎ魚道を散策したり魚道観察室から観察したりする際の景観への配慮から,魚道における植生の維持管理が課題である.2013年,効率的な除草に向けた現況把握のため,せせらぎ魚道及び魚道周辺区域で植生状況の調査を実施.環境省や新潟県が選定している重要種は確認されなかった一方,エゾノギシギシ,アメリカセンダングサ等の生態系被害防止外来種に該当する植物を 15 種確認し,そのうち特定外来生物は,アレチウリ,オオカワヂシャ,オオキンケイギクの 3 種を確認した.この調査結果を踏まえ,2014 年度には魚道における植生の維持管理手法について「せせらぎ魚道の外来種防除に係る取り組み指針(案)」を策定した.同指針(案)を参考に,これまでせせらぎ魚道及び魚道周辺区域の植生をまとめて除草する考え方で維持管理を行 ってきたところであるが,この手法では植生が形成した良好な水環境を維持することができないことがわかってきた.せせらぎ魚道の新設から 8 年が経過し,現在では植生状況の遷移がみられる.特に,せせらぎ魚道の一部においては,沈水植物の異常繁茂による水質や景観の悪化が懸念される一方で,在来種のミゾソバを主体とした植生の繁茂により日陰の環境が形成され,水生生物にと って好ましい環境が確認されている.魚道は本来,魚類の移動のための場であって,定着し生息する場ではないが,延長約 250 m あるせせらぎ魚道の一部で形成されるこうした環境は,底生魚や遊泳力の小さな魚類が生息したり,再生産したりすることもあることから,「日陰や隠れ場を生み出せる」,「景観を向上させる」というメリットと「移動環境を阻害する」,「水質を悪化させる」というデメリットを見極め,せせらぎ魚道で形成される植生環境を現地で観察しながら,除草により除去することなく,維持していくことが望ましいと考えられる.せせらぎ魚道において目指す植生の姿としては,適度に植物が生育して日陰環境や隠れ場を形成し,さらに外来種が減少して在来種が中心に優占する環境である.一方で,日常の維持管理において,在来種と外来種を選別して外来種のみを防除していくことは現実的に困難であることから,植生の遷移にあわせて維持管理方法を検討して取り組み指針(案)を見直していくことが今後の課題である.そのために,宮中取水ダム魚道における順応的管理の一環として,今後も,植生状況の遷移に応じて維持管理手法を改善し,引き続き順応的管理に取り組んでいく.

特集 カメラおよび画像処理技術を活用した生態系モニタリ ング
序文
事例研究
  • 九間 啓士朗, 海津 裕, 嶋田 哲郎, 高橋 佑亮, 古橋 賢一, 芋生 憲司
    2021 年23 巻2 号 p. 369-376
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    本研究では水草刈払いロボットの視覚センサとして,ディープラーニングによるセマンティックセグメンテーションにより,湖沼の水上の風景を自動的に分類するシステムの開発を行った.セマンティックセグメンテーシ ョンによるクラス分類に関しては今回実験を行った場所で刈り取り対象であるハスと希少種であるアサザを約 90%の正解率で分類することができた.ディープラーニングでは画像中の色や形状,位置情報を統合的に学習するため,照度の変化や水面の太陽光反射などの外部環境からの影響を受けず,水上のような特殊な条件下でもロバストな分類が可能であることを示すことができた.障害物として設置した竹や鋼管のポールに関しては,4 m 以内であれば 80%以上の正解率で分類が可能であり,さらに 4.0 m 以上先に位置する場合でも分類しその位置を測定できることを確認した.今後は,これらの分類結果と深度画像を組み合わせることによって,特定の植物種の刈払いや希少種の回避,障害物の回避などをロボットボートが自動的に行えるリアルタイム画像処理システムの開発を行う必要があろう.

短報
  • 鈴木 透, 高橋 佑亮, 嶋田 哲郎
    2021 年23 巻2 号 p. 377-382
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    宮城県伊豆沼において,サギ類の湖沼内の採餌環境は,ハスの過剰な増加による開放水面の減少や外来種による魚類相の変化より悪影響を受けていることが懸念されるが,その実態は明らかになっていない.そこで本研究では,サギ類を対象として,UAV を用いたモニタリングの利用可能性を検討した.調査は宮城県伊豆沼(面積:369 ha)で行い,2018 年 9 月に計 4 回,UAV を用いて上空から撮影を行い,計 7,852 枚の画像を取得した.撮影した画像を用いてサギ類の判別の可否を検討した.その結果,855枚の画像についてサギ類を確認することができ,UAV は湖沼内のサギ類のモニタリングに利用可能であると考えられた.また,UAV によるモニタリングを効率化するために,二値化処理による画像分析手法の利用可能性を検討した.その結果,今回使用した二値化処理は画像のスクリーニングには有用であるが,サギ類のみを抽出することは困難であり,手法のさらなる検討が必要であることが明らかなった.UAV や画像処理技術は,サギ類のモニタリングに関する新たな知見を取集することが可能であった.今後,UAV による生態系のモニタリングに関して,異なる環境や種への適用方法などよりよいプロトコルを検討していくことが望まれる.

原著論文
  • 中村 隆俊, 大木 慎也, 山田 浩之
    2021 年23 巻2 号 p. 383-393
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    湿原は脆弱で減少が著しい生態系として位置づけられており,保全・維持のための植生モニタリング体制の強化が求められているが,湿原内部へのアクセスは容易ではなくデータの蓄積は遅れている.しかし,近年急速に普及した UAV や全方位動画カメラを利用することで,植生の超広角近接空撮が実現するため,これまで撮影不可能であった群落内部の画像が容易に得られる可能性がある.こうしたアプローチは,湿原内部へのアクセスを回避し,非侵襲的な植生モニタリング体制構築の有効な手段となりうる. これまで UAV と全方位動画カメラの組み合わせによる植生調査が行われた例はなく,利点や欠点に関する知見はほとんどない.本研究では,湿原植生を対象として, UAV 空撮による全方位動画および静止画を用いた種判別や被度判読,TWINSPAN による統計的植生分類を行い, UAV 空撮による全方位動画の有効性について議論した.別寒辺牛湿原のフェンおよびボッグを対象に計 27 定点を設定し,2 m 四方の植生調査枠にて地上での植生調査を行うとともに,同じ調査枠を対象に UAV を用いて群落表層での全方位動画と高度 2 m・5 m での静止画を撮影し,各画像を用いて PC モニタ上でそれぞれ植生調査を行った.種の発見率や被度の判読誤差は,全方位動画と 2 m・5 m 静止画の間で平均値に大きな違いは認められなかった.しかし,全方位動画では群落内部の中・高被度かつ小・中型の種群の発見率が他の手法と比較して高かったことから,TWINSPAN において地上調査データに基づく分類と最も類似した結果が得られた.一方で,全方位動画では群落表層での近接撮影に伴う撮影範囲の狭小化や,UAV の接近による風の影響で一部種群での発見率低下が生じた.さらに,全方位動画でさえも,草丈 10 cm 以下の種はほとんど発見できなかった.従って, UAV 空撮による全方位動画を植生モニタリングで活用するためには,これらの欠点の改善に加え,小型種の発見率をさらに向上させる必要があると思われた.

  • 丹羽 英之, 今井 洋太, 鎌田 磨人
    2021 年23 巻2 号 p. 395-404
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル フリー

    沖縄本島でマングローブ林が成立しているとされている河川を視察し,現存するマングローブ林の面積が比較的大きい 4 河川(億首川,大浦川,慶佐次川,湧川)を調査対象とした.LARS で取得可能な情報をもとに,定量的な評価が可能な簡便で汎用性のある評価方法を検討した.可視光オルソモザイク画像と画像分類を用いた植生分類と植生指数を用いたマングローブの衰退度評価を組み合わせた方法とした.教師付オブジェクトベース画像分類により植生分類を得ることができた.4 河川において,分類クラスごとの面積を集計した結果,各クラスの面積比率は河川間で異なっていた.オブジェクトベース画像分類で得られたポリゴンのうちギャップに分類されたポリゴンの面積のヒストグラムを 4 河川で比較した結果,億首川だけ頻度分布が異なっていた.オヒルギと分類されたポリゴン内のNDVI の平均値は,億首川で 0.5 以下のポリゴンが多い傾向があった.億首川は林縁からの距離が近いほど NDVI の低いポリゴンが増加する,林縁からの距離が遠くなると NDVI の最大値が減少する傾向がみられた.林縁からの距離が近い場所で NDVI が低いポリゴンが多くなる傾向やパッチ内部における NDVI の低下は,マングローブ林の衰退度を評価する指標として利用できることが示唆された.4 河川の比較から,それぞれの河川のマングローブ林の特徴が把握でき,特に,億首川のマングローブ林は相対的に衰退が進んでいることを LARS による単年データで明らかにすることができた.

レポート
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