応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
室内および野外培養法から推定された矢作川の付着藻の河川一次生産力とその特徴
内田 朝子野崎 健太郎山田 佳裕
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 24 巻 1 号 p. 1-25

詳細
抄録

矢作川の瀬全体を対象にした付着藻による河川一次生産力を見積もった.礫河床 10 地点において,付着藻群落の一次生産を 2018 年 2 月と 8 月に測定した.一次生産は,DO を指標として,付着物の懸濁試料を用いて実験室で行う室内培養法と,礫をビニール袋で包み現場で行う袋法で測定した.付着藻の現存量は,珪藻が主体となった 2 月に 4.8~82.3(平均値 31.1)mg m-2と高い値を示したが,室内培養法から得られた光合成-光曲線の最大光合成速度および袋法による日総生産量は,シアノバクテリア Homoeothrix janthina が優占した 8 月に 1.2~8.7 (平均値 4.3)mg C mg Chl. a-1 h-1,0.5~1.3 (平均値 0.9)g C m-2 d-1 と高くなった.藻類現存量が 8 月に低いのは,夏には,アユに代表される藻類食者の捕食圧と出水による河床攪乱で付着物の蓄積が抑制され,自己遮光による光合成速度の低下が回避されていると推定された.一方, 2 月の最大光合成速度および日総生産量は,0.6~2.7(平均値1.1)mg C mg Chl. a-1 h-1,0.2~0.6(平均値 0.4) g C m-2 d-1と夏に比べて低かった.これらの値は,国内外の河川より小さかった.袋法による日純生産量(P n-d bag avg)から矢作川の瀬の一次生産力を見積もったところ,2 月に 180 kg C d-1,8月に 1,620 kg C d-1であった.矢作川では,付着藻の一次生産力は,夏には藻類食者の推定摂食量と同等かやや不足となり,冬には不足していることがわかった.本研究で見積もった河川一次生産力は,動物の餌量の把握に必要な情報であり,河川生態系の保全や環境影響評価を考える上で欠かせない指標になる.

著者関連情報
© 2021 応用生態工学会
次の記事
feedback
Top