応用生態工学
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24 巻, 1 号
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原著論文
  • 内田 朝子, 野崎 健太郎, 山田 佳裕
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 24 巻 1 号 p. 1-25
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    [早期公開] 公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    矢作川の瀬全体を対象にした付着藻による河川一次生産力を見積もった.礫河床 10 地点において,付着藻群落の一次生産を 2018 年 2 月と 8 月に測定した.一次生産は,DO を指標として,付着物の懸濁試料を用いて実験室で行う室内培養法と,礫をビニール袋で包み現場で行う袋法で測定した.付着藻の現存量は,珪藻が主体となった 2 月に 4.8~82.3(平均値 31.1)mg m-2と高い値を示したが,室内培養法から得られた光合成-光曲線の最大光合成速度および袋法による日総生産量は,シアノバクテリア Homoeothrix janthina が優占した 8 月に 1.2~8.7 (平均値 4.3)mg C mg Chl. a-1 h-1,0.5~1.3 (平均値 0.9)g C m-2 d-1 と高くなった.藻類現存量が 8 月に低いのは,夏には,アユに代表される藻類食者の捕食圧と出水による河床攪乱で付着物の蓄積が抑制され,自己遮光による光合成速度の低下が回避されていると推定された.一方, 2 月の最大光合成速度および日総生産量は,0.6~2.7(平均値1.1)mg C mg Chl. a-1 h-1,0.2~0.6(平均値 0.4) g C m-2 d-1と夏に比べて低かった.これらの値は,国内外の河川より小さかった.袋法による日純生産量(P n-d bag avg)から矢作川の瀬の一次生産力を見積もったところ,2 月に 180 kg C d-1,8月に 1,620 kg C d-1であった.矢作川では,付着藻の一次生産力は,夏には藻類食者の推定摂食量と同等かやや不足となり,冬には不足していることがわかった.本研究で見積もった河川一次生産力は,動物の餌量の把握に必要な情報であり,河川生態系の保全や環境影響評価を考える上で欠かせない指標になる.

事例研究
  • 北川 哲郎, 村岡 敬子, 中村 圭吾, 後藤 晃
    2021 年 24 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    [早期公開] 公開日: 2021/06/25
    ジャーナル フリー

    北海道函館湾周辺に流入する大当別川,流渓川,大野川において,河川汽水域における両側回遊型カジカ属魚類の稚魚に見られる環境選好性の解明を目的とした採捕調査ならびに環境利用調査を実施した.現地調査は,カジカ属の遡上期にあたる 2019 年 6 月 3 日から 7 月 5 日までの期間中に各河川で 3 回ずつ実施し,直接採捕によ って遡上期にあたる稚魚(遡上個体)の出現状況を確認した.また,遡上個体が日中の休息場として選好する環境を特定するため,個体の確認地点,特徴的な環境を呈した地点,および各河川に設けた調査測点において周辺環境(河口プールの有無,流速,水深,河床材料,浮石の有無,懸濁有機物の堆積,水際材料)を記録した.本調査の結果,3 河川から計 993 個体が採捕された.採捕個体数のピークは,流渓川と大野川では 3 回目の調査時に,大当別川では 2 回目に確認された.採捕された遡上個体の多くは河道内の随所で集団を形成する集中分布様式をとり,河床材料中あるいは浮石や落葉等の下部に生じた間隙中から獲られた.環境情報を取得した延べ 82 地点に基づく一般化線形混合モデルの作成によって遡上個体の選好環境を検証した結果,遡上個体の出現と水深の間には有意な負の相関が,河床材料中における砂,礫,石との間には有意な正の相関が認められた.これらの結果から,河川汽水域を遡上する両側回遊型カジカ属魚類の保全においては,日中の休息場となり得る砂・礫・石底の浅い緩流域,ならびに河道内へ進入した遡上個体の初期成長や淡水環境への馴致の場となる河口プールの維持あるいは創出が,有効な対策になり得ると示唆された.

  • 太田 真人, 泉 香名, 遊磨 正秀
    2021 年 24 巻 1 号 p. 39-50
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    [早期公開] 公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー

    琵琶湖流入河川では,夏季に瀬切れ現象が頻繁に生じている.瀬切れは,河川性動物に大きな影響を与えることが指摘されており,特に回遊魚にとっては,生活史において重要である移動を阻害するといわれている.本研究では両側回遊魚であるトウヨシノボリを対象に,同種当歳魚の遡上の状況から瀬切れ発生の評価が可能であるか検証をした.調査は 2008 年に琵琶湖に流入する 6 河川の下流部と中流部において,トウヨシノボリ当歳魚の遡上が終了したと考えられる 9 月から 11 月にかけて行った.また本種当歳魚が下流から中流へとどれだけ遡上できているかを示す指標として採集努力量当たりの採集数から当歳魚遡上指数と過去遡上指数を求めた.その結果,当歳魚遡上指数の平均値は,瀬切れが確認されなかった 3 河川で高く,瀬切れを確認した残りの 3 河川では低かった.説明変数に調査日ごとの当歳魚遡上指数,河川ごとの調査地間距離(km),調査地間の高度差(m).目的変数を瀬切れ区間距離として重回帰分析を行った結果,有意な関係がみられた説明変数は調査日ごとの当歳魚遡上指数のみであった.このことから瀬切れ区間距離はトウヨシノボリの遡上状況から推測が可能であることが示唆された.このことを踏まえ,各河川の過去遡上指数(2007 年以前に遡上)と平均当歳魚遡上指数(2008 年)の関係を比較した結果,ほとんどの河川では両指数は類似した値を示し,愛知川は両指数値が非常に低かった.また安曇川と犬上川は平均当歳魚遡上指数と過去遡上指数に大きな違いがみられた.これより愛知川は毎年トウヨシノボリの遡上に大きな影響を与える瀬切れが発生していたと考えられ,安曇川と犬上川も年によって大きな遡上阻害が発生していたことが示唆された.これらのことから,瀬切れはトウヨシノボリの当歳魚遡上に大きな影響を与え,遡上状況から瀬切れの規模を推測することが可能であり,過去の瀬切れ発生についても推測できることが示唆された.

  • 中村 和久, 河内 香織
    2021 年 24 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    [早期公開] 公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー

    日本において里地里山は独特の二次的自然環境を形成することにより,固有種や希少種を含んだ多くの生物の生息地となり,生物多様性に大きく貢献してきた.しかしながら近年はその里地里山環境が減少および劣化し,その中でも重要な構成要素の一つであるため池は防災対策の影響もあり著しく減少しており,その保全には限界があるのが現状である.そこで本研究では,ため池の保全だけに頼るのではなく,ため池の代替となる水環境の模索も必要と考えてゴルフ場の池に注目した.そして,近畿圏の 6 つのゴルフ場の調整池を対象として,水生植物の種類と種数を調査した.また,池の構造や周囲の環境,管理方法によって出現した水生植物種数の説明を試みた.ヒアリングの結果から,人為的な動植物の持ち込みは確認されなかった.調整池で観察された水生植物の種数は平均 2.5 種であり,先行研究においてため池で観察された種数(2.35 種)に劣らなかった.水深が浅いほど抽水植物の出現種数は多かった.これは抽水植物の出現に適した水深が保たれているためであると考えられた.DO が低いほど抽水植物の出現種数は多かったことに関しては,植物プランクトンの過剰繁殖との関係が考えられた.ゴルフ場の調整池で水生植物が生育できた要因として,一般のため池では管理放棄による遷移で消滅しやすい浅くて小さな池が存続していたこと,アメリカザリガニが侵入していなかったことが考えられる.特に抽水植物については適切な浅場と基質が存在したことが好ましい条件であったと推察された.今後は,里地里山の代替地としての可能性を高められるようなゴルフ場の管理を進めていくことが必要だと考える.

  • 速水 将人, 石山 信雄, 水本 寛基, 神戸 崇, 下田 和孝, 三坂 尚行, 卜部 浩一, 長坂 晶子, 長坂 有, 小野 理, 荒木 ...
    2021 年 24 巻 1 号 p. 61-73
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    [早期公開] 公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー

    河川上流域に多数設置された治山ダムは,渓流や森林の荒廃を防ぐ重要な役割を果たす一方で,渓流魚の河川内の自由な移動を阻害している.こうした状況に鑑み,河川生態系の保全を目的とした改良事業(魚道の設置,堤体の切り下げ)が国内の多くの治山ダムで実施されている.本研究では,北海道 3 河川に設置された治山ダムを対象に,魚道設置と切り下げによるダム改良工事が,その上下流の渓流魚類相に与える影響について,改良工事前後で行われた採捕調査によって検証した.同時に,ダム改良後の採捕結果と環境 DNA メタバーコーディングによる魚類相推定結果を比較し,治山ダム改良事業における環境 DNA メタバーコーディングを用いた魚類相推定の有効性を検討した.採捕調査の結果,治山ダムの改良事業によって,遡河回遊魚であるアメマスとサクラマスのダム上流への移動を可能にし,10 年後においても効果が確認された.環境 DNA メタバーコーディングでは,採捕された全 9 種に加え,採捕では確認されなか ったニジマスの計 10 種が検出され,治山ダム上下流に設定した各調査地点における遡河回遊魚のアメマス・サクラマスや,ハナカジカの採捕結果との一致率は 70-90 %であった.環境 DNA メタバーコーディングを治山ダム改良事業に適用する場合,評価対象魚種の特性や過去の採捕記録を考慮する必要はあるものの,改良前の治山ダムにおける魚類の遡上阻害の推定や,改良後の河川の魚類相・生息状況の推定に有効であることが示唆された.但し,治山ダムの切り下げを例にとると,遡上阻害の改善効果が維持される期間は工法によって異なる可能性もあり,正確な評価には様々な河川・工法を対象としたさらなる研究の蓄積が必要である.

特集 田んぼのいきものをどうやって守っていくか?―水田水域における多様な生物の保全と再生―
序文
原著論文
  • 中島 淳, 宮脇 崇
    2021 年 24 巻 1 号 p. 79-94
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

    1.休耕田を掘削した湿地ビオトープ(手光ビオトープ)における3 年間の調査において,18 目 93 種の水生動物,4 種の沈水植物を確認した.このうち環境省あるいは福岡県レッドデータブック掲載種は 24 種であり,本ビオトープが生物多様性や希少種の保全に効果があったことがわかった.
    2.水生昆虫の種数は夏季(8 月)を中心とした時期に増加,冬季(2 月)を中心とした時期に減少し,顕著な季節性があることがわかった.このことから,止水性昆虫相の調査は夏季に行うことが適していると考えられた.
    3.水生昆虫の種数及び多様度指数()は顕著な移行帯(エコトーン)をもつ地点が大きかったが,一方で流水環境に特異な種も確認されたことから,生物多様性保全を目的とした場合には浅所から深所まで連続的に変化する移行帯を伴う環境構造とともに,止水から流水にかけての多様な流速環境をデザインすることが重要であると考えられた.
    4.本ビオトープで確認された水生昆虫類は,ほぼ全種が近隣の 2 km 以内のため池に生息する種であったが,その一方でそれらのため池に生息しながらビオトープで確認されない種もあった.このことから,本ビオトープの水生昆虫相は,周囲の水生昆虫相とビオトープの環境構造の 2 点から決定したものと考えられた.5.本ビオトープの水生生物相は侵略性のある外来種であるアメリカザリガニとスクミリンゴガイによる悪影響を受けていたものと考えられた.

総説
  • 渡部 恵司, 中島 直久, 小出水 規行
    2021 年 24 巻 1 号 p. 95-110
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

    現在,水田の圃場整備は環境との調和に配慮しながら行われており,カエル類は整備の際に保全対象種に選定されることが多い.本論文では,カエル類の生息場の効果的な保全に資するため,農村地域でみられるカエル類の生態等の特徴,圃場整備による影響および生息場の保全策の知見を整理し,今後の課題について論じた.第一に,農村地域に生息する在来 13 種・亜種について,繁殖場-生息場間の移動や吸盤の有無等の特徴を整理した.第二に,圃場整備後にカエル類が減少する理由について,(1)表土を剥ぎ取ったり,事業前にあった土水路を埋めたりすることにより個体が死亡すること,(2)コンクリート水路への転落により個体が生息場間を移動できないこと,(3)区画整理や畦畔のコンクリート化により畦畔の面積が減少,畦畔の質が変化すること,(4)乾田化によりアカガエル類・ヒキガエル類の繁殖場やツチガエル幼生の越冬場が消失することを解説した.第三に,水田周辺におけるカエル類の生息場の保全策として,(1)工事前に個体を保護し,整備済みの水田や事業地区外に移動する,あるいは繁殖個体を再導入すること,(2)コンクリート水路に個体が転落しないように蓋を設置する,あるいは転落個体が脱出できるように脱出工を設置すること,(3)環境保全型水路やビオトープ等の設置により生息場・繁殖場を創出すること,(4)整備後の水田において有機栽培・減農薬栽培や中干の延期・中止,冬期湛水等を行うこと,(5)外来生物対策について解説した.今後の課題として,これからの農村では,担い手への農地集積や水田の更なる大区画化,スマート農業技術の導入等が進むと予想され,このような農村の変化によるカエル類の生息場への影響評価,および負の影響への対策の検討が必要である.

  • 皆川 明子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 111-126
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

     原生的氾濫原と水田水域との対比から,水田水域の整備水準と魚類の繁殖との関係を,後背湿地における冠水頻度と比較しながら論じた.伝統的な水田水域は多様な環境と階層性を持つ水域を内包し,かつ排水能力が低いために梅雨の降雨時に水田も広く冠水して魚類が河川等から繁殖のために進入する機会が多い.こうした特性が氾濫原水域に近く,多様な魚類の繁殖を支えていると考えられた.一方,整備済みの水田水域では水路密度の低下,排水機能の強化と落差による水域間の分断,これらに伴う階層構造の単純化,水路環境の単純化によって氾濫原水域としての特性が大きく変容していると考えられた.
     水田水域は多くが個人の土地かつ生業の場であること,維持管理の主体が農家であることにより,魚類を含む生物の保全に取り組むことを難しくしていると考えられる.そうした中で,整備済みの水田水域に後から魚道を設置した事例,休耕田の湛水やビオトープの造成により魚類の保全を図った事例,都市近郊の伝統的な水田水域の保全事例を紹介した.最後に,近年の水田水域を取り巻く社会状況の変化を踏まえた水田水域における魚類の保全の在り方について筆者の考えを述べた.

  • 片山 直樹, 熊田 那央, 田和 康太
    2021 年 24 巻 1 号 p. 127-138
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

    鳥類の生息地としての水田生態系の機能を明らかにするため,国内を中心に既往研究を整理した.その結果,水田は年間を通じ,多くの鳥類に採食場所を提供していることが示された.水田だけで生活史を完結させる種は少なく,草地や森林等の生息地の異質性が鳥類の種多様性を支えていた.しかし,戦後の農業の集約化は,水田の生息地としての質を低下させ,鳥類の生息・分布にも深刻な影響をもたらした.1970 年代以降の休耕・耕作放棄に伴う植生遷移は,鳥類の群集組成を大きく変化させた.水田性鳥類を保全するためには,有機栽培,冬期湛水,江や魚道の設置等の様々な環境保全型農業が有効であることが示唆された.これらの知見は,応用生態工学会の関係者が今後,水田生態系の保全を計画・実行する際に活用可能である.

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