2021 年 24 巻 1 号 p. 27-38
北海道函館湾周辺に流入する大当別川,流渓川,大野川において,河川汽水域における両側回遊型カジカ属魚類の稚魚に見られる環境選好性の解明を目的とした採捕調査ならびに環境利用調査を実施した.現地調査は,カジカ属の遡上期にあたる 2019 年 6 月 3 日から 7 月 5 日までの期間中に各河川で 3 回ずつ実施し,直接採捕によ って遡上期にあたる稚魚(遡上個体)の出現状況を確認した.また,遡上個体が日中の休息場として選好する環境を特定するため,個体の確認地点,特徴的な環境を呈した地点,および各河川に設けた調査測点において周辺環境(河口プールの有無,流速,水深,河床材料,浮石の有無,懸濁有機物の堆積,水際材料)を記録した.本調査の結果,3 河川から計 993 個体が採捕された.採捕個体数のピークは,流渓川と大野川では 3 回目の調査時に,大当別川では 2 回目に確認された.採捕された遡上個体の多くは河道内の随所で集団を形成する集中分布様式をとり,河床材料中あるいは浮石や落葉等の下部に生じた間隙中から獲られた.環境情報を取得した延べ 82 地点に基づく一般化線形混合モデルの作成によって遡上個体の選好環境を検証した結果,遡上個体の出現と水深の間には有意な負の相関が,河床材料中における砂,礫,石との間には有意な正の相関が認められた.これらの結果から,河川汽水域を遡上する両側回遊型カジカ属魚類の保全においては,日中の休息場となり得る砂・礫・石底の浅い緩流域,ならびに河道内へ進入した遡上個体の初期成長や淡水環境への馴致の場となる河口プールの維持あるいは創出が,有効な対策になり得ると示唆された.