応用生態工学
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原著論文
自然再生事業区域釧路湿原広里地区における湿原環境の実態
—植生と環境の対応関係からみた攪乱の影響評価—
中村 隆俊山田 浩之仲川 泰則笠井 由紀中村 太士渡辺 綱男
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2004 年 7 巻 1 号 p. 53-64

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抄録
釧路湿原再生事業対象地である広里地区での植生と環境要因の対応関係を整理することにより,地区内に存在する放棄農地や増加したハンノキ林に対する劣化の評価及びその劣化原因を検討した.主要な植生は7タイプに分類され,放棄農地部分では牧草種等からなる乾性草原植生タイプが優占し,地区内部ではハンノキやムジナスゲなどからなる湿原植生タイプが優占した.植生データと環境データによるCCA(正準対応分析)では,次の2つの傾向が主な特徴として抽出された: 1)地区内部に分布する湿原植生タイプから放棄農地に分布する乾性草原植生タイプへの移行と対応した地下水位の低下,2)ハンノキ優占タイプから他の湿原植生タイプへの移行と対応した地下水位の上昇·土壌水窒素濃度の低下・土壌水リン濃度の上昇.放棄農地における乾性草原植生は,隣接する雪裡川の分断に伴う著しい地下水位の低下により,かつての湿原植生から変化して生じたものであると考えられ,湿原生態系の深刻な劣化が生じていると評価された.ハンノキ林では,周辺の湿原群落との植生的な相違が比較的小さく,劣化の程度はまだ小さいものであると評価された.また,ハンノキ林の分布には高水位時の水文特性が強く影響していることが明らかとなったが,ハンノキ林の増加をもたらした決定的な環境変化や具体的な人為的攪乱との関連性を特定することはできなかった.
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© 2004 応用生態工学会
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