抄録
本研究は,コイ科稚仔魚の生息場所特性を把握し,増水実験による生息場所および生息数の変化様式から,稚仔魚の生息にとって必要な河川環境条件を考察することを目的とした.調査は,自然共生研究センターの実験河川Bのワンド研究ゾーンおよび冠水頻度研究ゾーンで5月下旬から6月上旬にかけて実施した.実験河川の基底流量である0.1m3/sec時に実施した稚仔魚の生息場所調査の結果,稚仔魚は流心部では確認されず,ワンド部,次いで水際部で多く確認された.稚仔魚の生息が確認されたセルは,確認されなかったセルと比較して,流速が遅く(稚仔魚の中央値:2cm/sec),植物被覆率が高い(仔魚の中央値:56%,稚魚の中央値:44%)環境特性を示した.しかし,流速が微小に維持されない河道部の抽水植物帯では,いくら植被度が高くても,稚仔魚は生息できないことが示唆された.主成分分析の結果,ワンドゾーンは,冠水ゾーンに存在しない環境を有した.稚仔魚の大部分が確認されたワンド部のセルは,その物理環境特性から明確に二分され(グループ1:水深,流速,中礫の割合,水深の変異が小さく,流速の変異,砂の割合,植物の被覆が大きい環境,グループ2:平均水深が大きい環境),既存の知見も踏まえると,同じワンド内であっても,物理環境特性の違いにより生息種は異なることが推測された.0.5および0.1m3/secの増水実験の結果,流心部での流速は有意に増加したものの,ワンド部の流速は小さく保たれた.稚仔魚の生息はワンド部に限定され,仔魚の数は増水に伴って有意に増加した.この理由としては,上流域からの流出個体がワンドに避難してきたものと考えられた.以上より,増水時でも水流が越流せず流速が緩和されているようなワンドは,稚仔魚の生息·避難場所として重要であり,増減水時にも稚仔魚の生息が可能な低流速域が確保できるように,氾濫原全体にわたり,多様な地形が確保されていることが重要と考えられた.