応用生態工学
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7 巻, 2 号
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原著論文
  • —ガガンボカゲロウ(昆虫綱·カゲロウ目)におけるミトコンドリア16S rRNA遺伝子配列の変異を例に—
    東城 幸治
    2005 年 7 巻 2 号 p. 119-127
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    河川の始点となる河川源流域は,河川生態を考える上でも重要な地域の一つと思われる.源流域には,この水域にのみ特異的に棲息するような水生生物も多く,独特の生物相をもつことも知られるが,一方では,流路が不安定であることや水面幅が狭いことなどから,この水域での底生動物相や生態学的な調査研究は充分には行なわれていないのが現状である.本研究では,源流域にのみ棲息が可能で,極めて移動·分散性が低いと考えられる底生動物の一種ガガンボカゲロウに焦点を当て,一般的なカゲロウ類数種との比較·検討を基に,棲息環境や生態的特性と遺伝的距離との関係について考察した.その結果,局地的に隔離分布するガガンボカゲロウの集団間の遺伝的な変異は,上·中·下流に広く棲息し,幼生期における流下や亜成虫·成虫期における遡上飛翔を行なうようなカゲロウ類(フタスジモンカゲロウなど)に比べ,たいへん大きなものであることが明らかとなった.河川源流域の水棲生物の中には,希少種としてリストアップされる種も多く,今後,特に源流域に特異的に棲息するような生物においては,種レベルだけの保全ではなく,地域集団レベルでの検討の必要性が示唆される.
  • —人工増水と生息場所との関係—
    佐川 志朗, 萱場 祐一, 荒井 浩昭, 天野 邦彦
    2005 年 7 巻 2 号 p. 129-138
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,コイ科稚仔魚の生息場所特性を把握し,増水実験による生息場所および生息数の変化様式から,稚仔魚の生息にとって必要な河川環境条件を考察することを目的とした.調査は,自然共生研究センターの実験河川Bのワンド研究ゾーンおよび冠水頻度研究ゾーンで5月下旬から6月上旬にかけて実施した.実験河川の基底流量である0.1m3/sec時に実施した稚仔魚の生息場所調査の結果,稚仔魚は流心部では確認されず,ワンド部,次いで水際部で多く確認された.稚仔魚の生息が確認されたセルは,確認されなかったセルと比較して,流速が遅く(稚仔魚の中央値:2cm/sec),植物被覆率が高い(仔魚の中央値:56%,稚魚の中央値:44%)環境特性を示した.しかし,流速が微小に維持されない河道部の抽水植物帯では,いくら植被度が高くても,稚仔魚は生息できないことが示唆された.主成分分析の結果,ワンドゾーンは,冠水ゾーンに存在しない環境を有した.稚仔魚の大部分が確認されたワンド部のセルは,その物理環境特性から明確に二分され(グループ1:水深,流速,中礫の割合,水深の変異が小さく,流速の変異,砂の割合,植物の被覆が大きい環境,グループ2:平均水深が大きい環境),既存の知見も踏まえると,同じワンド内であっても,物理環境特性の違いにより生息種は異なることが推測された.0.5および0.1m3/secの増水実験の結果,流心部での流速は有意に増加したものの,ワンド部の流速は小さく保たれた.稚仔魚の生息はワンド部に限定され,仔魚の数は増水に伴って有意に増加した.この理由としては,上流域からの流出個体がワンドに避難してきたものと考えられた.以上より,増水時でも水流が越流せず流速が緩和されているようなワンドは,稚仔魚の生息·避難場所として重要であり,増減水時にも稚仔魚の生息が可能な低流速域が確保できるように,氾濫原全体にわたり,多様な地形が確保されていることが重要と考えられた.
特集:標津川再生事業の概要と再蛇行化実験の評価
序文
事例研究
  • 平井 康幸, 空閑 健
    2005 年 7 巻 2 号 p. 143-150
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    標津川流域は,河道の直線化や堤防整備等の治水事業により大きく発展してきたが,一方で河川環境にも大きな影響を与えてきた.時代の変化とともに標津川を取り巻く状況も大きく変わり,治水安全度を確保しながら,自然河川への復元や,流域の主力産業である農業と漁業が共存·共栄できる河川環境,自然環境を活かした地域の活性化等について,地域の意識が高まってきた.これを踏まえ,国土交通省北海道開発局釧路開発建設部では標津川自然再生事業への取り組みを始めるに至った.検討にあたって,地域の代表者等で構成される標津川流域懇談会や学識経験者で構成される標津川技術検討委員会を設立し,議論·検討するとともに,現地試験等を通して計画立案に向けての予測·評価を行っている.今後,標津川流域懇談会の提言を踏まえ,現地試験等で技術的な面を検討しながら,引き続き,合意形成に向け地域と議論しながら計画を策定していく予定である.
原著論文
  • 渡邊 康玄, 長谷川 和義, 森 明巨, 鈴木 優一
    2005 年 7 巻 2 号 p. 151-164
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    近年の河川環境への意識の高まりを受け,北海道東部の標津川において河川環境の復元事業が策定された.河川環境復元の方法は様々検討されたが,日本では蛇行復元の先例が無く,河川工学的にも生態学的にもどのような現象が生じるかが不明確であった.このため,本格的な河川環境復元に先立ち,技術的な問題の把握と解決のため,標津川に直線化された河道を残しつつ旧川である三日月湖を接続させた試験区間を設け,現象の把握を行うこととした.本論文は,この試験区間における1年間の河道の変化について追跡し,現象の解明を試みたものである.河道の変化について,洪水前後に実施した現地踏査と河道の横断測量により把握を行った.その結果,事前に室内実験で水理模型実験を行い想定された以外の現象が確認され,今後の復元計画へ反映させる必要のある事項が把握された.すなわち,河岸侵食が湾曲部外岸側以外にも生じる可能性が存在し,流れの状態によっては内岸側も侵食が生じることを確認した.また,河岸が裸地の場合と植生で覆われている状況とでは,侵食の進む速さが大きく異なり,植生で覆われていることによる河岸の耐侵食性が高まることが確認された.河岸侵食と密接に関係するといわれる偏倚流速を簡易に算出する方法により求め,実際の侵食量と比較を行った結果,おおむね両者の傾向は一致するが,河床に形成される砂州の影響が大きく,河岸侵食を考える場合には砂州の形成をも検討に取り入れる必要性を明らかにした.また,この結果を用いた河道形状の将来予測手法の適用性を明確にした.
事例研究
  • 野崎 健太郎, 紀平 征希, 山田 浩之, 岸 大弼, 布川 雅典, 河口 洋一
    2005 年 7 巻 2 号 p. 165-172
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    標津川下流域(北海道標津町)に位置する浅い河跡湖(最大水深2m)の水質環境(水温,水中光の消散係数,溶存酸素,窒素,リン,クロロフィルa)を2001年7月21日,11月17日,2002年7月30日に調査した.水温は7月には地点間,水深間で10~24℃の違いが観察された.11月にはほぼ5℃で均一であった.溶存酸素濃度は常に10mg L-1以上を示し,最大値は,25mg L-1,飽和度で250%に達し,2001年7月21日に湖底付近で観察された.高い溶存酸素濃度が得られた地点は,水深が60~100cmで,表層より水温が5~10℃低く(10~15℃),大型糸状緑藻Spirogyra sp.が繁茂していた.湖水中の溶存態窒素濃度は,4~250μg L-1の幅で変動し,7月に大きく低下した.リン酸態リン濃度は,7~14μg L-1の幅で変動したが,溶存態窒素に比べて変動の幅は小さかった.懸濁態のリン量は33~35μg L-1,クロロフィルa量は10~13μg L-1であり,おおよそ一定であった.夏期の湖水中の全リン濃度とクロロフィルa量は,この河跡湖が中栄養と富栄養の中間の水質を持つことを示した.水中光の消散係数は,1~2m-1であり,富栄養湖の最大値に匹敵した.湖水中のクロロフィルa量は富栄養湖ほど多くはないので,水中光を大きく減らしているのは,植物プランクトン以外の懸濁物質や溶存有機物であると考えられる.河跡湖周辺の原風景が低湿地であったことを考えると,この河跡湖は湿地に多く見られる腐植栄養的な性質を持つ水環境である可能性が高い.これらの研究結果から,河跡湖の水質環境は,現在の標津川本川とは大きく異なっており,むしろ,かつての低湿地環境が残存している場であることが推定される.
原著論文
  • 中野 大助, 布川 雅典, 中村 太士
    2005 年 7 巻 2 号 p. 173-186
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    2002年3月,日本で初めてとなる河川の再蛇行化実験が,北海道東部の標津川で行われた.実験評価の一環として,沖積低地河川における再蛇行化が河川底生動物群集の分布や組成に及ぼす影響を明らかにすることを研究目的とした.再蛇行化実験前後の底生動物群集の変化については,実験前の2002年7月と実験後の2003年7月に定性的な調査を行った.再蛇行化により,河跡湖に生息していた止水性の底生動物のほとんどが,流水性の底生動物に入れ代わった.また,実験前の直線流路と実験後の直線流路と再蛇行化流路で採集された底生動物のタクサ数に大きな違いは見られなかった.一方,復元後の評価を定量的に行うため『再蛇行化された流路では直線流路に比べて物理環境が多様になり,そこに生息する底生動物群集も多様になる』という仮説をたて検証を行った.自然蛇行流路が残る西別川に基準区を設け,標津川再蛇行化流路を実験区,直線流路を対照区として定量的な調査を2002年の6月と11月の2回行った.物理環境の多様度を示す水深の変動係数とタクサ数との間には正の相関が見られた.しかし,横断線上で確認されたタクサのほとんどが,水深が浅く,水流の緩やかな水際領域で見つかり,仮説は支持されなかった.水際領域で底生動物の生息密度やタクサ数が高かったのは,平常時における河床安定性が,高いためと考えられた.本研究から沖積低地河川では,水際領域が底生動物群集の生息場所として重要であることが示唆された.また,湾曲部に形成される寄州は,特に安定した水際領域を生じさせると考えられることから,沖積低地河川では,蛇行していることが,底生動物にとって重要であると推察された.底生動物群集は,再蛇行化後の6月には回復の傾向が見られたが,この回復は11月には,見られなくなった.その原因として再蛇行化流路の勾配が急で,河床変動の起きやすい状態であることが,原因の1つと考えられた.実験は開始されたばかりであり,今後も注意深くモニタリングを続けていく必要がある.
  • 河口 洋一, 中村 太士, 萱場 祐一
    2005 年 7 巻 2 号 p. 187-199
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    河道の直線化によってその周辺に残された旧川を利用し,試験的な川の再蛇行化が標津川下流域で実施された.再蛇行前の2001年,再蛇行後の2002年の夏に,直線河道の標津川本川(対照区)と旧川(蛇行区)で,魚類の生息量調査と河道内の物理環境調査を実施した.再蛇行前の旧川は流れのない止水域で,標津川本川と比べ水深が大きく,河床は細かいシルトで覆われていた.この旧川には,ヤチウグイ,フナ属,イトヨ太平洋型,イバラトミヨ淡水型,ウキゴリといった止水性の魚類と,スジエビやウチダザリガニといった甲殻類が非常に多く生息していた.一方,標津川本川は流速の緩い範囲そして水深の浅い環境が全体に少なく,平均流速は速かった.標津川本川には,サクラマス,ウグイ,フクドジョウ,シマウキゴリといった流水性の魚類が生息していたが,これらの生息量は旧川と比べて非常に小さかった.旧川の物理環境は再蛇行後に大きく変化し,水深,流速,河床材料,水面勾配といった物理環境要素は,対照区である標津川本川と蛇行区でほぼ同じ傾向を示した.再蛇行により,蛇行区では縦断そして横断形状の多様化は認められたものの,明瞭な瀬淵構造は見られなかった.再蛇行化によって,旧川の物理環境は止水から流水に変化し,旧川に生息していた止水性の魚類は大きく減少した.一方,蛇行区の湾曲部では,浸食によって水際の河畔林が水中に倒れ込み,この倒流木周辺でサクラマス幼魚や大型のサケ科魚類が確認された.潜水観察や投網の調査で確認したサケ科魚類の個体数は,標津川本川より蛇行区で多かった.しかし,倒流木によって造られる環境は,出水によって消失するため,長期的に利用できる環境ではなかった.蛇行前の旧川は止水性の水生生物が数多く生息しており,今後の蛇行復元事業においては,蛇行復元を計画している旧川の環境と生物相の把握,そして蛇行復元にとどまらず氾濫原の復元も視野に入れた本川と旧川の連結方法の検討が必要だと考えられた.
総説
  • 高津 文人, 河口 洋一, 布川 雅典, 中村 太士
    2005 年 7 巻 2 号 p. 201-213
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    第一節では,なじみの薄い安定同位体自然存在比による解析の有用性と,どういう理屈でそういった解析ができるのかについて,コップの中の塩水の例えを交えながら簡単に説明した.第二節では安定同位体自然存在比(δ(デルタ)値)の定義とその変動メカニズムの理論的側面を概説した.生物も含めたあらゆる物質の同位体比は,それが生み出される餌資源や基質の同位体比によって大きく支配されているが,その際に重要となる同位体交換平衡と速度論的同位体効果の理論的側面を説明した.第三節では安定同位体比による河川の環境評価の際に特に重要になる水生生物のδ13Cおよびδ15Nの変動メカニズムとそれから読み取れる環境変動の特質について議論した.水生植物のδ13Cおよびδ15Nからは光合成活性,炭素循環,窒素欠乏および富栄養化といった河川環境の変化を知ることができる.第四節では標津川の蛇行復元実験の行われた標津川の本流と河跡湖の水生生物の炭素,窒素安定同位体比(δ13C,δ15N)の測定結果を水生生物の同位体変動要因から解釈することで,本流と河跡湖の食物網構造の違いを明らかにした.最後に同位体分析法の優れた特質と限界について議論した.安定同位体比による環境評価は,その優れた側面と限界を意識したサンプリングおよび考察を行ってはじめて,正確で総合的な環境評価パラメーターとなる.
意見
  • —米国の自然復元を踏まえて
    一井 直子
    2005 年 7 巻 2 号 p. 215-219
    発行日: 2005/01/30
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    Many restoration projects have been carried out and various topics associated with these restoration projects also have been discussed in the United States. In general, these discussions focused on ecological theory and technique; however, discussions focusing on the perspectives of the social sciences and humanities on actual restoration projects have been increasing. This paper introduced some typical assertions of these recent discussions in the U. S., and the lessons from these discussions were interpreted for Japanese restoration efforts which have been just started. There are two crucial lessons: first, it was more important for Japanese restoration projects than U. S. cases to discuss the ‘effective restoration’ from not only the aspect of natural science but also the aspects of social sciences and humanities. Second, these aspects included the careful consideration to local history, culture, and an existence of a target community, since restoration projects in Japan took place closer where people lived than the U. S. cases. The lessons lead to require a discussion table, which various restoration aspects can be explored for each restoration project.
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