抄録
本論文では河川の自然復元を考える場合の,基線となる概念,用語,生息域の定量的評価法を中心に考察した.基礎概念としては今日的潜在自然植生に倣って,今日的潜在自然の概念を提案した.人間活動の影響をどう捉えるかの例として,日本の近代における産業・社会の発展が,技術史的には三段階に整理できることを示し,自然度の低下の特徴を潜在自然と関連付けて論じた.
河川における生態環境を論ずる'とぎには,少なくとも,河川工学,地理学,植物生態学,動物生態学,緑地学などの専門家が集まり,学際的な議論をする必要がある.異なる学問分野においては,同一対象に関する用語が異なっていたり,異なる概念が使われていることがある.これらを統一したり,共通の認識を持たないと議論が成立しないことになる.こうした問題意識に基づき,用語についての問題提起を行った.
最後に,河川の自然特性を,自然の攪乱,連続性,河床の多様性の三つにまとめ,この観点から将来の河川計画が備えるべき要件を論じた.さらに,この議論を定量的に進めることを可能にするための評価法の体系を論じ,二次的な評価法が積層的に組み合わさった開かれた体系が望ましいことを述べた.必要な二次的な評価法の例は,環境流量などを分析する水文評価法,流れの3次元シミュレーションなどの水理評価法,水理量と生息域適性曲線との関係を論ずる微視的あるいは巨視的生息域評価法,事業の費用・便益を論ずる経済的評価法,自然の不確定性と計画の水準を論ずる信頼性解析などである.詳細な内容については,参考文献を通して例示した.