抄録
近年,取水堰付設魚道については,生物多様性保全の見地から水産重要魚種のみならず,より多様な魚種に対応したものが求められるようになりつつある.その際,問題になるのは農業利水と魚道機能の向上を如何に調和させるかということである.本報文では最近,近自然工法の一環として採用事例が増えつつある粗石付き斜路式魚道につき,利水等との調和を図りつつ多魚種対応が可能か否かを実験的に検討した.
その結果,局所流況に着目して粗石形状・粗石配置を設定すれば,魚道勾配1/40では通常の堰上げ水位変動範囲で大型魚から小型魚・底生魚まで遡上可能な流況が保たれること,浮遊流下物による閉塞抑制を図るべく粗石を水没させた状態(維持管理が比較的容易かつ低廉な流況)での魚道運用が可能なことが明らかとなった.また,魚道放流量の管理に役立てるべく,当該魚道の上流水位一放流量曲線も示した.
なお,本魚道は漁労用舟通しも兼用させたため,魚道内表面流速が比較的遅く魚道流況としては若干余裕が見られる状態であった.魚道機能に特化させれば更なる大水深や1/40を超える急勾配でも上記と同機能の流況が保たれる可能性がある。